偽りの人。




SIDE:ラキ

ゲートが閉まる音がしたのは、随分と前だった。

緊急時用に作られたセカンドブロックと呼ばれる第二のアジトは、ゲートが閉ざされた今、これまで使っていたアジト―――ファーストブロックからの侵入は二度と出来ない。

あの煉瓦のゲートの開閉は、たった一度しか使えないように作られている。

敵が無理に破壊しようとすれば、埋め込まれている術札が反応して爆発が起こるようになっているし、味方が入り損ねてもこちらから開けてやることは不可能だ。

「兄ちゃんは?」

下方からボトムを引っ張られて、ラキは足元に視線を落とした。

まだ幼い少年が、瞳を真っ赤にさせてこちらを凝視している。

確か衣織に膝を撃たれたシドの息子だ。

膝を折って少年と視線を合わせると、父親と同じ茶色の髪を優しく撫で付けた。

少し湿った柔らかな髪が、指の間をすり抜ける。

「大丈夫、すぐ来るよ」

名前が出ずとも誰のことかは知れる。

ラキとて先刻からずっと、気にかけ続けているのだから。

優しく答えた言葉は、自分自身が信じたい願いだ。

ゲートが閉まってからもう数十分になる。

入り遅れてない限り、このホールに到着していておかしくない時間だ。

縦長のファーストブロックと異なり、セカンドブロックは円を描くような形をしていて、側面に幾つもの部屋が設置されている。

地下という共通点はあるが、規模は小さい。

逃走の混乱が収まり始めたレジスタンスの面々は、事の深刻さに一様に厳しい顔つきだ。

ホールの空気はどんよりと重い。

その中でも、ラキの表情は一際暗く見える。

こんな時だからこそ、リーダーとしてしっかりしなければならない。

衣織に言われて芽生えた責任感が注意するけれど、それを教えてくれた人物が現れない限り、ラキは安心出来なかった。

自分を先に行かせたときには、私兵の数は数名だったけれど、もしファーストブロックのホールが突破されたのだとしたら、敵の数は更に増えているはずだ。

冷静に考えれば、衣織一人を残して行くだなんて、危険過ぎる。

やはり自分もあそこで私兵を迎え討てばよかったのだろうか。

そんなはずはない、と頭を振って見るけれど、後悔の念は少しも衰えず拳を握り締めた。

勿論、心配なのは何でも屋の少年一人きりではない。

ホールを守ってくれた、翔やソウが思い出される。

彼らはどうなったのだろう。

私兵がファーストブロックの奥まで侵入を果たしたのだから、最悪の展開は予想するべきだが、無事であることをひたすらに願う。

薄れぬ不安を掻き消すように、胸のペンダントをきつく握り締めた時だった。




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