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強大な力に歯向かうということが、どういうことか。
多くの人間をまとめ率いるということが、どういうことか。
まるで理解していなかったゆえに、覚悟も持っていなかった。
現状を打破するための、覚悟。
他者の命を背負う、覚悟。
目先の私心に拘泥せず、自分の力でしっかりと立たなければ。
今がその分岐点であり。
そしてデッドラインだ。
「あんたは、一体なんだ?」
か弱き少女なのか。
それとも―――
強過ぎる輝きに晒されたラキは、一度だけ唇を噛みしめてから、何かを振り払うような咆哮を上げた。
「アタシは、アタシはレジスタンスのリーダーだっっ!!」
双眸に灯った決然とした光り。
決意の響きに衣織の口角が上がる。
よかった。
そう思わずにはいられない。
中途半端であった今までで、これだけの人間のトップに立ってきたのだ。
潜在的に有する統率者の素質は十分。
幼い心を打ち破りさえすれば、彼女は素晴らしいリーダーとなれるはず。
一度だけ笑みを交わすと、二人は現実に立ち向かうべく表情を改めた。
「みんなの誘導はアタシがやる。あと二十秒だけ耐えて。そしたらゲートが閉まるから」
「分かった、先に行ってろ」
「間違っても入り遅れないでよね」
忠告を残すや、少女もまたセカンドブロックへと駆けて行った。
遠ざかる軽い足音は、すぐに銃声にかき消され聞こえなくなる。
この場に残っているのは、数を増やし始めた私兵と衣織だけだ。
ビュンビュンと弾丸の走る世界を見まわす。
二十秒、持ちこたえられるか。
「せっかくラキが覚悟決めたんだし、俺がシクるわけにはいかねぇだろ」
空を切って襲う銃撃を地面に転がってなんとか交わす。
跳弾はそのまま私兵に返るが、注意しなければ背後から打ち抜かれてしまう。
衣織は出来るだけ身を低くして弾を避け、合間に正確な反撃を行った。
一発で仕留めなければ、こちらの危険も増すためだ。
後十五秒。
撃つだけ味方に被害が出るとようやく悟ったのか、私兵たちは火器の使用を取りやめた。
彼らの射撃精度は粗悪であったのだし、まったく遅すぎる判断だ。
茶色の人影はいつの間にか数え切れないほどにまで増殖していた。
「くそっ」
次から次へと敵が増えていくのを、片っ端から撃ち殺すが、やはり間に合わない。
リロードを繰り返すが、残りの弾数も僅か。
サーベルを手にした男たちが、こちらに向かって突進して来た。
一対複数。
状況は絶望的だった。
冷たい汗が頬を伝う。
指の先から血の気が退く。
もう、どうしようもない。
今のままで勝てる可能性は、ゼロに等しい。
今のままでは。
無意識に腰に伸びた手は、ダガーの横に下がったソレを掴んでいた。
駄目だ。
使っては、いけない。
ソレは、駄目だ。
私兵が振り上げる鋼の輝きが、黒の瞳に映し出される。
少年に選択の余地はなかった。
「最低……」
呟きは、誰の耳に入ることもなかった。
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