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「私兵だぁっっ!!」
誰かの叫びを皮切りに、辺りは騒然となった。
振り返れば、茶色の人影がこちらに走って来ているではないか。
この閉鎖空間で発砲してきたあたり、相当切羽詰っているとしか思えない。
悲鳴を上げながらセカンドブロックへと人が殺到する。
「急いでっ!押し合わずにっ」
少女の言葉も虚しく、非戦闘員である人々は我先にと押し合い掴み合い、既に閉まり始めたセカンドブロックへと転がり込む。
「ラキっ、俺が食い止めるからさっさと全員中入れろっ!!」
「ならアタシもっ……」
ホルスターから銃を取り出した衣織は、ラキを怒鳴りつけた。
「自分の仕事しろっつったろっ!ここに私兵が入って来た意味を理解しろよっ」
瞬間、察した少女の赤茶の瞳が、極限まで開かれた。
自分の失言に気づいたのか、震える掌が口を押さえている。
まだ数は少ないが、アジトの最深部まで敵が到達してしまった。
それは、ホールでの足止めが決壊したということ。
残留組の生死が分からない以上、ここでリーダーを失うわけにはいかないのだ。
茫然自失といった様子で立ち竦むラキの姿に舌打ちが漏れる。
声も無く硬直しているのは、ただの少女だった。
「覚悟もなしにレジスタンスなんかやってんじゃねぇっっ!!」
叫ぶと同時に、最も近くまで来ていた私兵が銃撃を開始した。
足元を穿つ一発など知らないように、衣織は少女だけを見据えている。
「アンタがリーダーなんだよ。全員の命背負う覚悟も、仲間失う覚悟も持たないで理想ばっかりほざくな。普通の女やっていたいなら、最初からこんなご大層な組織作るなよっ。アンタの自己満足に付き合わされてるヤツの身にもなれ、クソガキっ!!」
半分以上閉まっている煉瓦壁に当たった敵の銃弾は、予測不可能な跳弾となり、でたらめな軌道で飛び交った。
「ぎゃぁっっ」
蛙が潰れたような悲鳴が次々上がるが、レジスタンスの面々は全員避難し終えていたために、負傷したのは私兵ばかりだ。
それでも、駆けつけたばかりの私兵たちは、銃撃を開始する。
悠長に話している時間はない。
挑むような瞳で、ラキを捉えた。
「現状変えたいなら、それなりの覚悟決めろ」
何も出来ないと嘆いた少女。
力が足りないと自分を責めた少女。
それは間違いだ。
何も出来ないのではなく、何もしていないだけ。
己に課せられた役割を理解せず、ただ理想とするものだけに手を伸ばした。
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