覚悟。




子供の泣き声に、衣織は足を止めた。

すぐ後ろで地べたに倒れている少年がいる。

恐らくは蹴躓いて転んだのだろう。

「おらっ。しっかりしろよ、泣くな」

戻って手を差し伸べてやると、小さな柔らかい感触が返ってきた。

ぐずぐずに泣いた目は真っ赤に染まっているが、すぐに手を離し自力で立ち上がった辺りはなかなか根性がある。

安心させるように笑いかけてやると、少年は大きく頷いて再び走り出した。

よたよたと頼りない後姿に、衣織は目を細めた。

デジャヴュを感じているのは、きっと気のせいではない。

あの少年より少しだけ年上だったけれど、精神的な脆さで言えば然したる差はないように思える。

遠い過去を見つめている今の自分は、あの頃に比べてどれほど成長したのだろうか。

寂寥感に満たされる前に、ラキの声がかかった。

「衣織っ、何してんだよ!さっさとしてよ」

どうでもいいが、いい年の少女の何と言葉遣いの荒いこと。

こだわる性質ではないが、ナイト達の存在を思うと年寄り臭い感想を抱いてしまう。

ソウも翔もよくこんな跳ねっ返りを、と思ってから、人の好みはそれぞれだと考えを打ち消した。

声の下へ走っていくと、ラキの他にもすでに多くの人間が待機していた。

「なんだよ、行き止まりか?」

通路はそこで行き止まりになっており、赤煉瓦の壁が通行止めを主張している。

怪訝な顔をすると、少女は首を振って煉瓦の壁に駆け寄った。

集まっていた大勢の人々がラキのためにスペースを作ると、彼女は煉瓦のブロックに手をかざした。

「なんだ?」

華奢な掌がブロックを押すと、ボコッという音と共に煉瓦の一つが奥に沈む。

どんな順番があるのか知らないが、ラキは同じように次々と煉瓦を押し、その度にブロックはへこんだ。

最後の一つだったのか、左上のブロックを沈ませた時、煉瓦の壁がゴゴッと地響きをさせながら右にスライドし始めた。

長い間使われていなかったせいか、土埃が立ち上る。

「みんな早く入って、お年寄りや小さな子には手を貸してあげてっ」

隠し通路が開くや否や、ラキの大声に従って一斉にレジスタンスのメンバーは、向こう側へと駆け込んだ。

正しい順序で煉瓦を押した時にのみ、このセカンドブロックへの道が現れるのかと納得する。

「衣織も早くっ。ここ1分で閉まっちゃうんだ」
「はやっ!」

こうしてはいられないと足を動かそうとしたとき、耳を覆うような銃声がすぐ近くで響いた。




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