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「武器は?」
こっち。とホールとは逆方向に走り出した小さな背中を追いかける。
一本道の単純な構造は、私兵に踏み込まれた時は簡単にアジトが制圧されてしまうことを示唆していたが、行き交う人々の混乱は最小限に抑えられた。
戦いに赴く流れと避難する流れが、左右に分かれて完璧に作られている。
幼い子供や老人の混じる人波を、スピードを緩めずに足を動かしながら、衣織は思考を廻らせた。
私兵たちの襲撃は予期せぬものだったが、まるで図ったようなタイミングである。
翔とソウのやり取りでは、まさに今日、武器がアジトへ運び込まれたと言っていた。
武力抗争を目前とした今、ただでさえ戦力面で大きく劣るレジスタンスが、万が一にも装備類を奪われるのは厳しすぎる。
また、戦闘要員の補強―――というよりもメインだが―――として衣織たちを雇った矢先の襲来だ。
レジスタンス側にどのような戦力が加わったのか、下手をすれば敵に図られかねない。
何より衣織が懸念するのは。
「……どうしてアジトの場所がバレたんだ?」
口の中で呟いた時、目の前のラキが足を止めた。
「ここっ」
巨大な扉は地下通路の側面に存在した。
「今開けるから」
「二人で運べるのか?」
扉に付けられた電子ロックの番号を、素早く入力するオレンジ頭に問いかけると、ちょうどドアが開いた。
薄暗い室内に飛び込めば、中には巨大なコンテナが二つ安置されている。
「いや、普通にムリだろ……二人じゃ」
これを運び出す自信は、当然ない。
「下のストッパー外して。出来たら車輪にコレ貼って」
こちらの不安を歯牙にもかけず、ラキが押し付けてきたのは、妙な記号が羅列している青い札だった。
「何だよ、これ?」
「いいから、さっさとやる!」
ピシャリと言うと、一つを衣織に任せ自分も片割れのコンテナに駆け寄った。
時間がないことは分かっていたので、意味が分からないなりに衣織も地面に膝をついて、コンテナのステッパーを外す。
もらった札を言われた通り貼り付けると、ラキも作業を終えたようだ。
「終わったぞ。んで、どうすんだよ?……はっ!?」
少女の身の丈以上はあるコンテナが動き出したのを見て、衣織は黒い眼を見開いた。
さらに自分の傍らにあったコンテナが後に続くように移動し始めたのだから、もう少年の驚きは止まらない。
「な、なんでっ!?」
ギィギィと嫌な金属音を立ててはいるものの、二つのコンテナは仲良く一列になって、全開にされた扉から外へと出て行く。
唖然とする衣織に、ラキは得意そうに笑いかけた。
「舐めるなって言っただろ?イルビナの術札だよ」
彼女の説明によれば、この青い札を貼った対象物は赤い札に引き寄せられる術が宿っているらしい。
緊急事態に備えて赤い札はすでにセカンドブロックに貼ってあるので、後は勝手にコンテナが移動してくれるのだ。
さすが、商業都市カシュラーンである。
珍しい品があるものだ。
「ぼけっとしてないで、さっさとセカンドブロックに行こうっ。他のみんなが逃げ遅れないように誘導しなきゃいけないんだから」
感心する衣織を促したラキの様子は、寸前までの彼女とはどこか異なって見えた。
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