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雪の背中が視界から完全に消えるのを見届けると、衣織はもがいていたラキを解放した。
「ぷはっ、何すんだよ!!アタシもみんなの所にっ……」
「そうだな。セカンドブロックとか言うとこにいる『みんな』の所に行くぞ」
衣織の真剣な眼差しに射抜かれて、少女の顔が強張った。
ソウの指揮は適切だった。
完全な戦闘要員の彼自身と、広範囲の攻撃が出来る術師を対私兵組に振り分け、レジスタンスのヘッドであるラキを避難させると同時に、非戦闘員の護衛に当たらせる。
先の一件で衣織が銃を使うことに気がついたのだろう。
地下通路という空間に加え、行われているのは乱闘。
発砲による兆弾の危険性を鑑みて、衣織をラキのサポートに回した。
武器の移動も併せて請け負わせることで、少女に明確な『仕事』を与える。
それが、リーダーに振り分けられた仕事になるのか、駄々をこねる少女を言いくるめる方便になるのか。
「あんたはあんたの仕事をしろよ」
衣織は彼女の頭を撫でるソウを思いながら、はっきりと言い切った。
仲間と共に最前線で戦いたい気持ちは分かる。
自分が中心となった組織ならば、尚更、己こそが体を張らなければならないと考えるだろう。
だが、その程度の動機で動く者は、リーダーになり得ない。
実力を示したいから、明確な形で貢献したいから。
子供だから?女だから?
連れて行って、隣りで戦わせて。
幼さゆえの、浅薄で意固地なプライド。
すぐ傍にある太陽色の瞳が、愕然と見開かれていた。
「ソウたちに混じって私兵と直接、殺り合わなきゃ認めてもらえないとでも思ってんのかよ」
「だって、アタシは……」
「リーダーだから?リーダーが的確なソウの指示を無視して、勝手な行動していいわけないだろ。あんたにはちゃんとした仕事があるじゃん」
ラキの目がさっと逸らされて、足元に落ちる。
朱の走った頬から、彼女がようやく理解したことを主張していた。
自分のちっぽけな見栄を慮ってもらったことに、気づいたのだ。
レジスタンスに賛同し集ったメンバー全員を背負う立場の自分が、己の幼稚な虚栄心を優先させることなど許されないと。
リーダーという任に就いている自分が、エゴイズムに走る暴挙を行っていいはずがないと。
痛感している。
「傍にいることだけが、一緒に戦うってことじゃねぇんだぞ?ほら、セカンドブロック行くんだろ」
「うん」
ラキはややぎこちなく、それでも真摯な瞳で頷いた。
その真っ直ぐな輝きに内心で安心した。
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