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冗談の力加減で首を締め上げ、雪がそれから逃れようと身を捩る。
その拍子に、雪の襟元から輝くソレが飛び出した。
「あ?何、コレ?」
黒の着衣の上で、それはとびきり美しく光を放っていた。
儚げで静謐な透明な水晶のペンダント。
「え?」
興味本位で手を伸ばそうとした衣織に、雪はようやく自分の首から下がっているそれに気付いた。
少年の指先が小さな水晶に触れようとした瞬間、衣織は自分の身に走った衝撃に唖然とした。
「あ……」
思わずといった一音は、雪が零したものだった。
衣織は床に尻餅をついていた。
術師の腕によって突き飛ばされたのだと理解するまで、数秒の時間を要する。
「……悪い」
小さな謝罪の言葉には、確かな自己嫌悪が含まれていて、放心状態の自分には。
「へい、き」
そう返すことしか出来なかった。
なにが起こったのか。
考えようとしても、突然のことに脳が上手く動いてくれない。
部屋に落ちた気まずい沈黙だけが、衣織の心を占拠する。
部屋の扉をノックする音が響いたのは、その時だった。
「あ、はいはいはーい」
我に返ると、衣織は急いで立ち上がりドアを開けた。
立っていた人物は、見下ろす位置に顔がある。
「ラキ、どうしたんだ?」
「ほらっ」
問いかけには答えず、少女は離れたところにいた人物を厳しい顔つきで手招きした。
「ソウ、さん?」
現れた長身の男に、衣織は自然と頬が強張った。
何せ切りかかられたのは、つい先刻のことだ。
警戒してしまうのも仕方ない。
しかし、ソウは。
「悪かった、さっきは」
「はっ?」
心底申し訳なさそうな表情で言ったのである。
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