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彼のこんなにも笑った顔を見るのは初めてだと。
荘厳なまでの美貌は、いつもよりもずっと人間味を帯びていて、ふと気付く。
「もしかして、あんた若い?」
「は?」
いつもは衣織が言う疑問の一文字。
金の瞳を細めて笑う雪は、いつも見ている恐ろしいほどに整った面と違って幼く見えたのだ。
「今いくつ?」
衣織の質問に笑いを止めて、怪訝な表情になる。
「十九だが……」
「はっ?十代っ!?見えねぇっっ!!」
衝撃の真実に絶叫する。
しまった。
些か衝撃が強すぎる。
カルチャーショックとも言える驚愕のレベルだ。
途端に雪の表情が苦くなる。
「お前の方こそ失礼だ」
「いやいやいやっ。だって、え?マジで十九!?」
「……」
ジロリと睨まれても驚きは消えない。
落ち着いた物腰と卓越した容姿から、年齢不詳ではあったが、しかし十代だとは。
「……お前は何歳なんだ?」
「俺はいたって外見通り。十七だよ。アンタみたいにビックリドッキリな要素はねぇ」
ビックリドッキリ……。と小さく呟く雪は、相当落ち込んでいるようだ。
驚いたのは本当だし撤回する気もさらさらないが、少しだけ罪悪感のようなものが生じる。
緩く俯いた顔を覗き込むように窺った。
「あのさ、いや、ほら。別にフケてるとか言いたいんじゃねぇし。その、なんつーの」
「……なんだ?」
すっかりヤサグレた瞳で促される。
「面倒くせぇな……だぁぁっ!!アンタは美形なんだから、いいだろがっ!年齢とか気にする必要ないからっ、その超絶綺麗な顔で年齢という概念は懸念要素に入れんなっっっ!!」
逆切れ。
昨今の若者によく見られる現象を、現代人らしく披露しながら一息で言い切った。
軽く肩で息をしつつ、これでどうだ?とチラリと視線を投げた先には、ニヤリと意地悪く笑う雪がいた。
「んだよ?」
「そんなに俺が美形だと力説してくれると思わなくてな」
「っ、マジ、アンタってすげぇ嫌な奴っっ!!」
雪の首を両手で絞めようと手を伸ばすと、それを避けて彼の体がベッドに倒れこんだ。
愉快そうな雪の笑い声が耳に心地よい。
衣織の口元にも、自然と笑みが浮かんでいた。
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