拒絶。




淡い暖色の光に照らされた室内で、衣織はベッドに寝そべった。

二人に与えられた部屋は、半地下のせいもあってか薄暗い一室だったが、広々としていて文句は無かった。

照明の問題も、吊るされたカンテラが解決してくれているし、蒸し暑くないのはそこかしこに備えられた精霊石のおかげだ。

「レジスタンスって言うわりには、結構いいアジトだよなぁ」

少ない資金で細々と又殺伐とした活動をしているイメージを持っていたが、これは認識を改める必要がありそうだ。

日光すら入らないものの、これだけ大規模な隠れ家を街のすぐ近くに構えているとは、さしもの総領主もびっくりだろう。

ギルドの中にも協力者がいるのかもしれない。

でなければ、露草という総領主を潰したからといって、そうやすやすと政府の発足は出来ないだろう。

なにせ、国民の信頼を欲しいままにしているのは、商人ギルドなのだから。

豊富な活動費と、総領主さえ倒せば政府を作ることが出来るというレジスタンスの口ぶりから、衣織はそう推測した。

「空いた」

一人考えを廻らせていた時、浴室の扉が開いた。

ポタポタと雫を滴らせながら、黒の上下を纏った男が出てくる。

「あんた、子供じゃないんだから。髪、ちゃんと拭けよ」

呆れたように言うと、雪は持っていたバスタオルでガシガシと白銀の水分を拭い始めた。

乱暴な仕草に顔を顰める。

「だぁっ!せっかく綺麗な髪してんだから、もうちょっと丁寧にやれよっ」

言うや、ベッドを飛び降り彼からタオルを引ったくる。

「もういい、俺が拭いてやる!」

それから雪を見て唇を尖らせた。

「なんだ?」
「……どっか座れよ。あんたがデカイんだからな。決して俺がチビなわけじゃねぇからな」

少年の言葉に、雪は吹き出した。

「笑うな!このクソ術師っ」

腹を抱えるほどヒットしたらしく、雪は身を折って自分のベッドに腰を下ろした。

半ば倒れこむように。

「マジでムカツク。アンタ、すっげぇ失礼だって自覚ある?」

むくれた表情で文句を言いながら、衣織は雪の前に立ってその絹糸のような髪を優しく拭いてやる。

「っ……悪かった……っ」
「笑い噛み殺してんじゃねぇっ!!」

銀髪に当てていたタオルを、未だに笑いの抜けない美貌を巻き込んで擦り付ける。

「痛っ、おいよせ」
「アンタが笑うの止めたらなっ」

それから、ぼんやりと思った。




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