凍てつく刃。
「お二人を最初に襲撃した時、ラキが商人かどうか聞きましたよね?」
総領主の私兵の前でレジスタンスのジープに乗ったせいで、二人は当分の間アジトに寝床を確保することになった。
元が地下通路だったためにどこまでも奥行きのあるアジトは、手が加えられていて通路の左右に沢山の扉が見える。
レジスタンスリーダーのラキの補佐を担う翔に案内されながら、その丁寧な説明は行われていた。
「この国で商売をするならば、地代を総領主に支払わなければなりません。これ以上の財力をつけられると厄介なので、ああして見知らぬ人間が砂漠を越えようとするときは出向くんです」
実際に商人だったとしたら、どうなるのか想像したが、若干薄ら寒くなったのですぐに打ち切る。
だが、顔に出てしまったのか翔が苦笑を零した。
「別に商人だったとしても、殺したりはしませんよ」
「だよな」
ほっと嘆息したのも束の間。
殺したりは、ね。と翔が口の端を吊り上げるものだから、乾いた笑いが出てしまう。
「依頼をして来たんだし、武力行使は目前なんだな?」
流れを無視した雪の言葉に、衣織は密かに感謝した。
レジスタンスと結んだ契約内容は、武力抗争時の主戦力としての参戦だ。
先を急ぐらしい雪からの条件もあって、長期間の契約は結んでいない。
限定された依頼なのだから、それはもう決戦が近いということを意味している。
翔は眼鏡のブリッジを中指で押し上げると、すっと表情を改める。
「はい。準備を入れても三日後にはと考えています」
随分急な話だ。と思ったけれど、レジスタンスからしてみれば待ちに待ったのかもしれない。
「現在の総領主は三カ月程前に着任した露草という人物です。彼を説得するのがベストですが、無理ならば武力で交渉の席に着かせます」
「こっちの戦力は大丈夫なのかよ」
「実質、戦闘に参加出来る人数は、私兵の半数にも満たないでしょう」
硬化した声色で応じた青年の発言に、衣織の表情が険しくなる。
雪も眉間に深いシワを作った。
「勝てるのか?」
市街で襲ってきた様子を見る限り、私兵たちは総じて気が短く好戦的に感じられた。
その分、戦闘慣れはしているだろうし残虐だろう。
通常は商人だというレジスタンスの面々が、敵の半分以下の兵力で太刀打ちできるのか甚だ疑問である。
「勝つしかないだろ」
雪の問いの答えたのは、翔ではなかった。
褐色の肌と野性的な双眸が印象的な長身の男が、不敵に微笑みながら、壁に寄りかかるように立っていた。
腰に下げているのは一振りの長刀だ。
刀と呼ばれる東国シンラの武器は、その扱いの難しさと稀少性から使い手を見たのは初めてだった。
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