先ほどのジープを運転していたのも、彼だ。

信頼の置けるサポート役であることは、すぐに分かる。

良くも悪くも直球勝負のリーダーに代わって、眼鏡をかけた繊細な美貌の青年―――翔は交渉役を買って出た。

「我々がレジスタンスというのは、もうご存知ですよね?」
「まぁな」
「この組織の目的は、ネイド政府の発足です」
「政府?」

現在のネイドに反発を持っているからこそ、レジスタンスなどという武装組織を結成したのだろうと予測していたが、政府の発足とは考えつかなかった。

反復した衣織に頷いてみせる。

「えぇ。現在のネイドでは総領主による資本主義を超越した、実力主義体制が敷かれています。力のある商人のみが富みを得る、それだけなら構いません。己の出生に関わらず才ある者がのし上がることが出来るのが、この国の特色です。しかし―――」

思わせぶりに言葉を切ると、彼は特別興味を見せない雪に一瞬目をやってから、続きを紡いだ。

「総領主の地位までもが商品となっているシステムは、ネイドを蝕む」

レンズの奥の瞳が、厳しい色を宿した。

「総領主になる人間の循環があまりに早いせいで、国民がついて行くことが出来ていないのです」

ネイドで総領主の地位が売買されるようになったのは、数十年前から。

財政の困窮が理由といわれているが、詳しい事実は定かではない。

何でも屋としてそれなりに情報にも通じている衣織だったが、さすがに異国の事情にまで明るいわけではなかった。

翔の話にきちんと耳を傾けているも、対する雪は素知らぬ顔でホールを見回している。

「統治者が安定しないために法の整備や福祉がままならず、ネイドでは貧民層が急増し続けています。国に代わって商人ギルドが下層民のフォローを行っていますが、十分とは言えません」

国がなんとか形を保っているのは、一重に商人ギルドとよばれる商人の民間組織のおかげだという。

国民たちの信頼も、椅子を暖める間もなく代わってしまう総領主ではなく、昨今ではギルドに傾倒しがちだ。

金次第で着任できる『総領主』への畏敬の念も薄れて久しい。

「この国の崩壊は必ず訪れます。遠くない未来に」

治める者への信頼が揺らいだ瞬間、国は滅びると聞いたことがあるが、だとすればネイドはすでに滅びている。

険しい顔つきで語る青年に同調したレジスタンスの面々に、一種の決意が見て取れる。

「私たちは、現総領主・露草に武力抗争を仕掛けます」
「は?」

それまで神妙な面持ちで黙っていた衣織は、彼の一言に目を剥いた。

話がどうも穏やかでない。

いや、そもそもレジスタンスと言った時点で、穏やかさとはかけ離れているのだが。

「武力抗争って、勝機あんのか?」

眉を顰めるとラキが割って入って来た。




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