それは嵐のように。
「どうするよ?」
市場に向かう道すがら、一刻もしないうちに出てきた屋敷を振り返った。
立入許可を出せる総領主と面会出来ないのでは、どうにもしようがない。
残る手と言えばコッソリと侵入するくらいだが、違法手段はご免である。
「会えないのでは仕方ない」
「いいのか?」
「先に別の土地を廻る」
「別の土地って、まだそんなに行かなきゃならないとこあるのかよ」
ガクリと項垂れる衣織が、再び付いてきたことを後悔しようとした時である。
鼓膜を打った響きは、先日も聞いたものだった。
「昨日のか?」
「たぶんな。相当ヒマなんじゃねぇの?」
毒づいたのと、一台の薄汚れたジープが角から現れたのは、ほぼ同時。
衣織は素早くホルスターから銃を引き抜いた。
街中での発砲は出来る限り避けたいが、昨日のやり取りからすればそうも言ってはいられないだろう。
だが、ジープから飛び降りて来たのは、あの小柄なリーダーだけ。
走って来た車両も一台きりである。
何か作戦でもあるのだろうか、と身構えたものの、覆面顔の小さな影は焦ったような素振りで、無鉄砲にも衣織に突進して来た。
「は?」
呆気にとられる少年に、影ははっきりと女と分かる高い声で叫んだ。
「アタシのペンダント、持ってるっ!?」
「はっ!?」
何が何だか。
胸倉を掴まれてガクガクと揺さぶられるが、衣織は咄嗟に何のことか分からなかった。
「ペンダント?」
「そうっ。お前ら持ってない!?」
「ペンダント、ペンダント……あー、もしかし……っ!」
橙色の宝石を付けた逸品を思い出しかけるも、衣織は少女を抱き上げてその場を飛び退いた。
「きゃっ」
短い悲鳴は、耳を劈くような発砲音に掻き消される。
一瞬前まで二人がいた場所に、銃弾が撃ち込まれたのだ。
「レジスタンスだ!捕らえろっ」
ぎょっとした気持ちで確認すれば、茶色の服に身を包んだ男達が、こちらに向かって銃を構えているではないか。
腕の中の少女を地面に下ろすと、衣織は頬を強張らせた。
「なに、あんたら有名人なわけ?」
「……それなりにね」
ならばどうしてこんな街中までやって来たのか。
総領主の館はすぐ傍だ。
お尋ね者ならばもう少し注意を払ってくれないと、巻き込まれて迷惑をするのはこちらである。
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