生じた矛盾。




「なんだ、これ」

何気なく手を突っ込んだポケットの先に、衣織は覚えのない感触を捉えて、それを引っ張り出した。

意味不明な襲撃を受けた後、彼らはどうにかこうにかその日のうちに城門を潜り、カシュラーン入りを果たした。

港から街までの行程は否応なく二人の体力を奪い、すぐさま宿を取り現在に至る。

ふかふかのベッドに寝転がりながら、衣織はソレをじっくりと観察した。

大きな橙色の宝石がついたペンダントである。

ぴかぴかと輝きを放つ装飾品は、随分と高価そうだ。

そんなものがどうして、己のポケットに入っているのか心当たりは皆無。

暫し悩んだ末に出て来たのは。

「売るか?」

己の趣味嗜好と実益を兼ねた結論である。

誰かの持ち物であるだなんて考えは、ちらとも出てこない。

いくらくらいになるだろうか、と考えを廻らせていると、砂埃で汚れたマントを脱いでいた雪がこちらを向いた。

「なんだ?」
「知らねぇ、ポケットに入ってた」

そうか。と応えると、興味が失せたのかそれきりペンダントについては何も聞かず、雪はゆったりとした籐の椅子に腰掛ける。

室内の内装は南部独特のインテリアで、緋色と白を基調としている。

雪のとった宿屋は船に引き続き上質の部屋で、広々とした上に随分と豪奢な内装だ。

円柱形のクッションを抱き込むと、衣織は気になっていた疑問を術師に投げかけた。

「なぁ、どうやって総領主に会うんだよ?」

衣織の問いに、雪はサラリと返事をした。

「まかせろ」
「は?いや、まかせろって、アンタ……。あのさ、相手が総領主だってこと、本当に理解してるんだよな?」

疑念に満ち満ちた目になるのも仕方ない。

商人の国ネイドでは、国の統治権までもが売買の対象となる。

途方もない値段で統治権を購入した者が、ネイドの『総領主』としてこの国を治めることが出来るのだ。

お陰で、ネイドの政治は常に流動的。

商人ギルドによってある程度の福祉対策はされているが、ビジネスの手腕がない人間にとっては生きにくいことこの上ない土地である。

逆に言えば商売の才さえあれば、出自など関係なく昇って行けるのもネイド。

己の腕のみがものを言う、超実力主義国と噂されているが、決して間違いではなかった。

その実力至上主義の国のトップともなる相手だ。

簡単に会えるはずもない。




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