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瞬く間に体勢を直すと、衣織は恐ろしいほどに正確な射撃を放った。
三発の銃弾は僅かのズレもなく砂の壁の一点に吸い込まれ、向こう側にいるであろう人物を襲う。
「翔っ!?」
今度こそはっきり女と分かる声が、辺りに木霊した。
サァッと地精霊の防壁が崩れる。
しかし、そこに人影はなかった。
どうやらすぐさま距離を取ったらしい。
その的確な判断能力に、舌打ちが漏れる。
「術師がいるっ、退くぞ!!」
敵衆の一人が怒声を上げた。
術師が相手では歯が立たないと、ようやく思い知ったらしい。
彼らは負傷した仲間もろとも、素早くジープに乗り込むと、目にも留まらぬ速さで砂塵を撒き散らしながら、熱砂の中へと逃げて行った。
現れた時も突然だが、撤退も突然である。
すっかり人気のなくなった砂漠の中心で、衣織は唖然としながらに銃をしまう。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ。助かった、ありがとな」
体についた砂を叩き落としながら、雪を振り返った。
見た限り、彼は無傷のようだ。
「なんだったんだ、あれ」
「さぁな」
余計な運動をしたせいで、無駄に体力を消費してしまった。
大方、辺りに出没する盗賊の類なのだろうが、しかし妙だ。
「なんで『商人か?』なんて聞いたんだ」
「知らん」
「だよな……」
衣織は大きな溜息を吐くと、あの小柄な女リーダーを思い出す。
それから、得意の『嫌な予感』に憂鬱な気分に陥った。
「なんかさ、すんげぇ面倒な匂いがする」
「……」
答えない雪を無視して、衣織は肩を落とした。
あぁ、この間までの平穏な日々が恋しい。
彼について来たのは間違いだったのかもしれないと、黒髪の少年は早くも後悔し始めていた。
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