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「待てっ!!」
それらの動きを停止させたのは、凛と響く一声だった。
十数の男たちは踏み出した足を下げる。
状況の変容に、こちらもトリガーにかけた指から力を抜く。
割れた人垣を進んで来たのは、随分と小柄な人物だ。
雪も怪訝な表情で、顔に布を巻きつけた一人を見やる。
「目的地はどこだ?」
小柄な相手は、前置きもなく言った。
声の質から先ほど男達を一喝した者と同一人物だと知れるも、中低音では性別までは読み取れない。
「さぁ?どこだろうな」
蓄積した鬱憤を発散出来なかった衣織は、挑発するかのように応じた。
手の内で銃を弄びながら、口角を持ち上げる。
「……質問に答えろ。あまりこちらを怒らせない方が身のためだぞ」
衣織の返答に再び殺気立ち始めた仲間を、片手で制しつつの警告。
場を仕切っていることから、この小さな人物がリーダーなのだと悟った。
「目的地はカシュラーンだな?」
ネイドが首都、カシュラーン。
今も視界の端に見える世界最大の商業都市は、確かに二人の目的地である。
「この砂漠にいるんだ、そこしかねぇだろ」
相手も分かっていて確認しているのだろうが、察しのつく事実を尋ねられるのは、今の彼には少々鬱陶しい。
「商人か?」
「は?」
質問の意図が分からずに、衣織は首を傾げた。
どういう意味だ。
こちらの目的はもちろん商売ではなかったけれど、それを聞いてどうするというのか。
突如として現れた集団が、何を考えているのかまるで読めない。
「なぜそんなことを聞く?」
頭を捻る衣織に変わり、雪が口を開いた。
しかし、これが相手の神経を逆撫でしたらしい。
「聞かれたことに答えりゃいいんだよっ!」
彼らの内の一人が苛立ったように怒鳴り、手にした猟銃を発砲した。
男も当てるつもりはなかったはずだ。
空を走る弾丸が衣織の頬を掠めた瞬間、相手は驚きに目を見開く。
チリッと皮膚を焦がす、熱い痛み。
「っ!」
白い頬から一滴の紅が流れたのを確認するや否や、少年の堪忍袋の緒が派手な音を立ててぶち切れた。
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