南国ネイド。




「暑ぃ……」

照りつける太陽光に目を眇めながら、少年はぼそりと零した。

足に纏わり付くのは、慣れた氷雪ではなくサラサラの砂。

延々と続く蒸し釜の中で、時折吹く熱風に乗って砂嵐がやって来る。

額には珠のような汗が浮かんでいた。

砂漠と言うものの脅威は、ソグディス山に勝るとも劣らない。

初めて訪れた異国の地は、彼がそれまで住んでいた土地とは対極の場所であった。

―――南国ネイド。

噂には聞いていたが、茹だる様な暑さだ。

世界の南に位置するこの国は、雪国出身の衣織にとっては辛いものがあった。

火傷防止に被ったマントが鬱陶しい。

港から出てそろそろ小一時間が経とうとしていた。

「……アンタ、どうして平気なんだよ?」

八つ当たり気味に投げられた質問に、同じく白いマントを被った長身の男が振り返った。

「平気ではない」
「嘘つけ。本当に暑いなら、そんな平然としてられるかよっ」

黒曜石の瞳に相対した男の眼は輝く黄金で、平常と変わらぬ表情の面は息を呑むほどの美貌を誇っていた。

「分かった……。アンタ、一人だけエレメント使役してんだろ?そうだろっ」

身を焦がす熱に浮かされた衣織は、ジロリと睨みをきかせると、雪に食って掛かった。

返されたのは小さな舌打ち。

「はっ?マジかっ!?マジで一人だけエレメント使って涼んでんのかっ!?」

言ったのはこちらだが、まさかと目を見開く。

「気のせいだ」
「今、絶対ぇ舌打ちしたよな?しただろ?」

どこぞの賊のように凄みを利かせる少年に、雪は視線を泳がせた。

「そんなことはない」
「へぇ、嘘つくか?つくのか嘘?」

傍から見れば恐喝現場のような光景だったが、幸いこの熱砂空間には二人の他に人の姿は見受けられなかった。

「ずりぃ。術師だからってそんなこと許されると思うなよっ」
「許されないのか?」
「許されないっ」
「なぜ?」
「俺が暑いから」

あまりに自己中心的な発言をかます衣織の思考回路は、慣れない気候のせいで少々壊れ気味。

雪は呆れた視線で嘆息すると、肩にかかる白銀の長髪を払った。

「こんなことで一々術を使うわけがないだろう。俺も暑い」
「……嘘じゃねぇだろうな?」
「嘘じゃない」

そう言って雪は衣織の手をとった。

自分よりも大きな白い手には、じんわりと汗が滲んでいて、確かに本当のようだ。

「悪い」

小さく謝罪した少年は、ようやく頭に血が上っていたことを自覚した。

乾燥した空気が肌に密着してくる世界で、彼も暑くないわけがないのだ。

「気にするな」
「ん」

頷くと二人は再び目的地に向かって足を動かし始めた。

夜になれば砂漠の温度は急激に低下する。

あまり離れていないとはいえ、そろそろ夕刻。

急ぐに越したことはなかった。




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