輝きには先ほどの穏やかさなど欠片も見られず、あるのは冷徹な色のみ。

抑揚のない無感動な双眸は、顔立ちが整っているだけに余計に冷酷な印象を与えた。

「申し訳ございませんっ」

直角の位置まで頭を下げた彼女の表情は、苦渋に満ち溢れ、きつく唇を噛み締めていた。

「民間人への処置は?」
「部下に排除を命じましたが、逃げられたようです」

ダブリアに残した部下からの報告は、紫倉にとって恥の上塗りにしかならないものだった。

雪山での戦闘が思い起こされ、拳を握り締める。

ただの一般人だとは、対峙したときから思っていなかった。

彼らの纏う雰囲気は、決して平和呆けしたものではなく、常に緊張状態に身を置いている戦い慣れた人間のものだったからだ。

だからこそ、己の敗北が許せない。

片割れが術師だったのは計算外だったが、自分が直接戦ったのは黒髪の少年ただ一人。

幼い頃から万能の才を発揮していた紫倉にとって、平民の子供に圧倒されたという事実は有り得ない屈辱。

何の邪魔もされずに一対一で戦ったとしても、きっと自分は負けていた。

紫倉はレイピアにかけては、誰よりも抜きん出た戦闘能力を誇っていた。

実力があるからこそ分かってしまう。

彼は自分よりも強いと。

「一番悔しいのはこいつだろ。手ぇ回して処分すりゃいい話だ」

煙を吐き出しながら、碧が提案する。

火澄は彼をチラリと一瞥しただけで、すぐに視線を紫倉に戻す。

「清凛大佐」
「はい……」

流名と階級で呼ばれ、頬が強張った。

「次はない」

氷のような一言に、紫倉は背筋が震えるのを感じた。

いつも穏やかに微笑んでいるせいで、時々忘れてしまいそうになるが、こうして今自分を射止める眼差しは絶対的な支配者のものだ。

走る悪寒に耐えるように、もう一度深く頭を垂れた。

「二人の特徴は?」
「一人は黒髪黒目の少年で、身長は百七十程度。もう一人は銀髪に金色の瞳で、こちらは術師でした」
「金に、銀髪……」
「え?」
「つーか術師って、おい。どこの所属だ?明らかに民間人じゃねぇだろ」

部下の答えに、碧はポロリと煙草を落とした。

深緑の瞳は驚きに飾られている。

「いえ、それが軍属には見受けられませんでした。黒髪の関係者の情報では、旅人だそうです」
「腕は?」
「相当なものでした。下級精霊の使役においては詠唱破棄、また中級精霊も使役出来るようです」
「中級までかよ。それで軍属じゃねぇって、どんな物好きだ」




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