その様子に、自分の一方的な感情の流れを痛感させられ、ツキンっと胸が痛んだ。

勿論、それを表面に出すほど幼くはない。

紫倉は改めてデスクの人物に敬礼をした。

「紫倉=清凛大佐、ダブリアの任務より帰還、ご報告に参りました」
「お疲れ様。送られて来たデータは解析に回してあるから、後で確認に行ってね」

軽い口調の男だったが、彼がこの部屋の主である。

甘いハニーブロンドの髪の彼は、赤い瞳で優しく微笑んだ。

華やかな美貌は秀逸で、典雅と言っても過言ではない。

「おい、火澄。火ぃ貸せ」
「ダジャレ?」
「違げぇよ、馬鹿」

彼のデスクに寄りかかった碧は、着崩した軍服のポケットから新たな煙草を取り出し、二人の話を遮った。

「僕はライターじゃないんだけど」
「使えるもんは使うべきだろ」

諦めたように苦笑した火澄は、軽く両の手を打ち鳴らした。

途端、碧の咥えた煙草に明かりが灯る。

「サンキュ」

紫煙をくゆらせる長身の男は、満足そうだ。

それ以上、話しの腰を折るつもりもないらしく、大人しくなる。

「えっと、何の話をしてたんだっけ?」

ごめんね。と謝りながら問われ、紫倉は真面目な顔つきのまま返答をした。

「はい。ダブリアの報告でデータの話を」
「あぁ、そうそう。うん、それでね。データの採取は完璧だったみたい。君に任せてよかった」
「勿体ないお言葉です」
「ダブリア軍には見つからなかったんだよね?」

火澄の質問に、紫倉は頷いた。

「はい。細心の注意を払いました。ダブリア軍勢には、こちらの存在は気付かれていません」
「そう、なら良かった。向こうに気が付かれると、何かと面倒だからさ。……あぁ、そういえば」

思い出したように呟かれて、女の肩がピクリと反応した。

続く言葉が予想出来て、身の内に羞恥の念が蘇る。

「碧に撤退命令出してもらったんだってね」
「……はい」

上官の声音は決して強くはなかったけれど、自然と視線が下がりそうになる。

高い矜持で何とか堪えた紫倉は、屈辱的な報告をする。

「任務完了間際に、部下が不審な民間人を二名発見。目撃情報の漏洩を危惧し、追跡・戦闘に移行。戦況が思わしくなかったため、碧様に撤退命令を頂きました」
「二人だけだったの?」

その問いが、さらに彼女のプライドを傷つける。

「ほぉ、レベル3一隊だから三十弱だよな?やるじゃねぇか、その二人」
「まったく、簡単に言わないでくれるかな。一応、最高レベルの一隊なんだよ。二人にやられちゃったって言うのは、ちょっと笑えないよ。ねぇ、紫倉?」

緋色の眼が彼女を射抜いた。




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