術師でもない己が精霊となり、目に見えぬ道を辿って世界を漂ったと思うと、妙な気持ちになる。

再構築されることが出来てよかったと、心の底から安堵すると共に、雪がいてくれたからこそだと思った。

もう一度、会いたい。

会って想いを伝えたい。

強い願いが衣織を衣織として存在させたのではないか。

そう信じている。

ふっと目を細めたのは、今も雪の胸元に下げられているだろう、透明な水晶のペンダントを思い出したからだ。

この身が分解したとき、花石だけが雪のもとに残された。

完全に華真族ではなくなったことで、その能力を封印していた短刀は失われたが、心臓の核であった花石までは消失しなかったのだ。

少年の内側からなくなっても、花石は衣織の存在を感じ取り、求めて反応したという。

雪は花石の拍動に消えた衣織の生存を確信し、導かれるがままにソグディス山までやって来たと話していた。

一族以外の侵入を拒む天園にも、花石を身に着けていれば入れるだろうと続けた雪だったが、それまでは自分が持っていたいと願い出た。

離れていた間は、この石だけがお前が生きている証だったのだと、臆面もなく言われては否とは言えない。

何しろ、衣織が分解されて再構築されるまでの間に、三ヶ月もの月日が流れていたのだから。

一体どんな思いで衣織の無事を信じ、待っていてくれたのか。

再びまみえたときに受け止めた、真摯な瞳まで思い出しかけて、少年は慌てて追憶から抜け出した。

「今こうしてるんだから、それでいいだろ?簡単にくだばるようなタイプでもないしさ」
「生きていたから言える言葉だと、決して忘れるなよ。お前は本当に、無茶ばかりする」
「ごめんって。ところでさ、その玲明ってどうしてんの?」

本気で窘められて、流石にバツが悪くなった少年は、話題の転換を図った。

翔嘩もそれ以上は追及せずに、「あぁ」と軽く応じてくれる。

「あいつなら、まだイルビナから帰って来ていない。クーデターが成功して今は元帥になった火澄=苑麗が、花突の新しい研究プロジェクトを立ててな、それにダブリアも技術協力することになったんだ。玲明には指揮を執らせることにしているから、まだ当分は戻って来ないだろう」
「花突の、新しい研究?」

思いがけない言葉に、血の気が引いた。

元帥の暴走を止めた火澄が、なぜそんな真似を。

しかし、衣織の心配は杞憂に終わった。

「安心しろ。老害元帥の研究とは別だ」
「じゃあ一体なんの?」
「花突の花精霊供給を、永続的にするための研究だ。もう二度と、華真族から犠牲者を出さないためにな」

にっこりと笑顔で言われた内容に、目を丸くする。




- 558 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -