花にまがえて舞う奇跡。
真っ白な光りが、満ちていた。
天もなく地もない白いだけの輝く空間は、広いのか狭いのか、端が掴めず把握できない。
身体感覚も失われて、意識だけが優しくあたたかい気配に包まれているようだ。
不安はなかった。
白は優しい。
白はあたたかい。
白が己を害することはなく、白は己を護るものだと確信していた。
だってそれは、彼の色だから。
初めて目にした、白銀の髪。
きらきらと長い髪は、彼の動きに合わせて柔らかに揺れていた。
触れれば絹糸のように滑らかで、指の間をすべやかに通って行くのが気持ち良かった。
撫ででみたり、引っ張ってみたり、口づけてみたり。
白い彼の、白銀の髪が好きだ。
前髪から覗く金色の眼との対比は、驚くほど美しかった。
感情の発露が薄い白皙の面に代わって、その瞳が多くの想いを教えてくれる。
愛おしさや喜びで綻ぶときもあれば、怒りや警戒で怜悧な眼光を灯すこともあったし、悲しみや不安で翳ったりもした。
金色の中にとりどりの感情を乗せて見つめてくれるたび、心臓が忙しなく動いた。
跳ねたり、駆け足になったり、重くなったり、締め付けられたり。
白い彼の、金色の瞳が好きだ。
惜しみない恋情を注ぐ心が、時にもどかしくもあった。
勘が鋭く頭も回るはずなのに、大事なことにはひどく鈍感で不器用。
想いが通い合うや過保護なくらいに護ろうとするから、苛立つことも少なくない。
愛するものを護りたいと思うのは、彼だけではないのだと、なぜ分からないのか。
でも、教えてやることを面倒に感じたことは、一度もなかった。
全力で言葉と気持ちをぶつければ、絶対に逃げずに受け止めてくれるから。
白い彼の、純粋な心が好きだ。
親を手にかけた自分を穢れていると言った。
過ちばかりの罪に塗れた身と嘆いた。
束縛や独占欲にも似た業を嫌悪していた。
どこか卑屈で、どこか情けなくて、どこか弱い。
あぁ、彼は馬鹿だ。
そんなことで、己が伝える言葉を変えるとでも思ったのだろうか。
構わない。
ちっとも気にならない。
言いたいのは一つだけ。
何度も、何度も、何度も。
ずっと彼に伝え続けたい。
彼の傍に在り続けたい。
だから、かえろう。
大好きな人のもとへ。
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