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どうして。
衣織があれほど心を砕いても、一度も受け入れてなどくれなかったではないか。
いつだって、偽りの愛を唱えていたではないか。
璃季を求めていたのではないのか。
それなのに。
どうしてあんなことを言うのだ。
どうして。
――ごめんね
彼女の唇が紡いだ言葉。
自分への謝罪。
「衣織」への、謝罪。
視界が不自然に歪んだ。
謝らなくていい。
本当は、自分だって同罪だった。
蓮璃が狂って行くのを、ただ傍観していただけだったのだから。
止めることも出来なかったのだから。
大切な貴方が壊れることに怯えて、何も知らないと見て見ぬふりを続けた。
いつも通りだと、何も変わりはないと、平穏だと思い続けた。
大切だったのに。
貴方のことが、大切だったのに。
「蓮璃……」
愛している。
愛しているよ。
貴方のことを、心から愛していたんだ。
頬伝う温かな何かは、無言で走り続ける男の肩に、ゆっくりと吸い込まれていった。
to be contined...
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