共に詠う言の葉。
SIDE:雪
眼前で猛々しく舞い上がる無数の粒子は、その濃密さゆえに光りの柱として視認できた。
外部からの干渉によって異常なまでに活性化した花突は、前回を上回る眩さを放ちながら、花精霊を生み出している。
保護壁の抑圧から解放されたエネルギーが、凄まじい強風を生じさせ、男の身を包むローブが勢いよくはためいた。
輝きを弾いて煌めきながら踊る白銀の髪を、邪険にするように払う。
露わになった花突の力に圧倒され、あれだけ行く手を阻んでいたイルビナ兵たちは、目を覆って風に堪えるばかりで動かない。
耳に届く剣戟も極僅かだ。
それも隙をついた衣織が、一方的に兵士たちの剣を叩き落としているだけで、苦戦していた戦況はガラリと変化していた。
背後を窺った雪は、白に染まった世界で懸命に自分を護ろうとする黒髪の少年を一瞥すると、ローブの内側から首に下げたペンダントを引っ張り出した。
透明な水晶は花突の光りに溶け込むように白光している。
初めて天園を出たその日から、ずっと肌身離さず持っていた蛍の花石だ。
誰よりも、何よりも大切だった妹が、生きていた証。
掌に握り込めば、彼女の優しい温もりを感じる気がする。
雪はぐっと力を込めて、ペンダントの紐を引き千切った。
花神として選び手に入れた石は、全部で五つ。
四つの大陸にある花突すべてで儀式を終わらせた後、最後に天園で花石を捧げることになっている。
北の山中で一つを衣織に破壊されてしまったから、懐の中に残る黒い花石はあと一つだ。
新たな花神を立てなければ、必ずどこかで妹の透明な花石を使わざるを得ない。
雪はこの荒れた西の大地にこそ、蛍の清らかな魂が必要に思えた。
醜く卑しい己を、最後の最後まで包み込むような優しさで支え、慕い続けてくれた蛍。
彼女の花石ならば、きっとこの醜く卑しい世界を受け入れ護ってくれる。
誤った発展と過剰な武力を求めた愚かな者たちが、己が傲慢で暴走させた花突。
その代償を払わされるのが自分たち一族であることは、未だに納得できていない。
幼きころに祖父へと語った言葉を撤回するつもりもない。
けれど今、この世界を救う術があるとしたら、それはこの掌の内側で輝く花石だけだ。
目蓋を伏せた雪はそっと白い水晶へ口付けると、光りの柱に向かってそれを投げた。
刹那、場を満たす空気が張り詰め、光りと風が威力を増した。
火澄の精霊で作られた薄皮を隔てた外に、激しくうねる精霊を感じながら雪は唱える。
「花の流れの同胞よ――」
ゴゥッと唸る風音に紛れることなく、粛々とした低音が響く。
研究所にいた誰もが動きを止め、頭の中に直接届くような詠唱に雪を見やった。
「汝が背負いし秋の地へ――」
今や輝く竜巻のようになった花突の中央に、巨大化した花石が突き立つ。
透き通っているがために光りを取り込み反射する様は、神々しい美しさがある。
網膜を焼くほどの光量に、多くの人間は畏れるように顔を背けるが、雪は決して目を逸らさなかった。
逸らせば儀式が失敗すると、確信していたからだ。
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