どこまでも続くと思われた連絡通路は、間もなく終わりを告げる。

正面に見える扉の向こうは、もう研究所だ。

気を引き締めながら銃のグリップを握り直す。

この先に何が待ち受けているのか、誰にも分からない。

果たして荒れた花突を相手に、儀式が本当に成功するのか。

イルビナ軍の護りはどれほどに堅いのか。

頭の中でひしめく様々な想像に意味はなく、少年は誓い通り、ただ一人を最後まで守り抜くだけだ。

と、研究所の扉が音もなくスライドした。

何事かと思う前に、ドッと流れ込んで来た威圧感で全身の筋肉かぎゅっと収縮した。

「っ、なんだ!?」

背骨の芯をビリリッと走り抜けた悪寒に立ち止まると、出て来たのは数人の人影だった。

紅色の軍服の中で目を惹く漆黒の衣。

纏うはやせ細った身体に不似合いなほど、鋭い眼光を放つ老齢の男だ。

最初にそれを口にしたのは、火澄だった。

立ち止まり対峙した相手へ、絞り出すような声で零す。

「父、さん……」

先刻までの余裕はどこに行ったのか、常に柔らな微笑みを湛えていた雅な美貌が、覚悟を決めた者特有の迫力で強張っている。

てっきり花突の前で待ち受けていると考えていたのに、まさか蒼牙の方から赴いて来るとは。

蒼牙は求め続けたはずの華真族を一瞥するに留めると、すぐに自分の息子へと研ぎ澄まされた眼光を光らせた。

そして次の瞬間、通路を突き抜けて行ったのは凄まじい強風だった。

ビョッと唸るような音が耳朶を嬲り、衣織は同時に叩きつけられた覇気を顔前でクロスした両腕でどうにか凌いだ。

「大丈夫か」
「平気、だけど……なんだ今の」

眇めた目で辺りを見回せば、自分たちに付いて来た士官だけでなく、蒼牙の護衛まで倒れ伏している。

衝撃に耐えられず昏倒したに違いない。

意識を保っているのは、元帥と自分たち三人ばかりだ。

一体、今の風はなんであったのか。

疑問を解消したのは問いかけた雪ではなく、驚愕に彩られた火澄の言葉だった。

「風精霊……?術師、だったのか」
「え?」

その呟きについ舌打ちが漏れた。




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