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長い連絡通路にいくつもの足音が響き渡る。
平行に並んだ二棟を繋ぐそこを抜ければ、目的地の研究所だ。
しかしながら、問題なのはここから。
比較的スムーズに来られた今までとは異なり、花突の警備は厳戒態勢が布かれているはず。
これだけ花突に接近しても、傍らを走る雪の表情に変わりは見られないが、儀式が上手く行くかどうかも分からない。
今度こそ彼を護るのだと気を引き締め直した少年は、体幹を突き抜けた微弱な電流に足を止めた。
「全員、止まれ!」
唐突な制止にも関わらず、一群は足を止めた。
先頭を行っていた神楽が訝しげな目でこちらを振り返る。
「どうされました?」
「あんたら、もうちょい後ろ下がって」
「は、はい」
それに応えることなく戸惑う背後の士官たちに距離を取らせると、衣織は雪を仰いだ。
「俺たち三人分だけでいいから、シールド張れるか?」
「分かった。一体何が……」
指示通りに防御壁を作った術師は、不意に言葉を途切れさせると頭上を見上げた。
どうやら自分の勘は間違っていなかったらしい。
呆れた様子のこちらに何事か察したのか、神楽は「まさか」と目を瞬かせた後、頭痛を堪えるように額を押さえる。
次の展開を冷静に予想していた少年は、思った通り爆破した天井に大きな溜息を吐き出した。
精霊に守られた衣織たちの上へと、瓦礫や硝子片が落ちて来る。
「な、なんだっ!?」
今しがた自分たちも同じ手を使ったと言うのに、反蒼牙派の士官はぎょっと身を固くした。
突然これをやられたイルビナ兵たちは、さぞかし驚いただろうと半ば同情していれば、ぶち開けられた天井の穴から見慣れた二人組が軽やかに降り立った。
「数時間ぶり」
にこりと笑顔で挨拶して見せた火澄に、眩暈がする。
「呑気に挨拶してんなよな……。気付いてなかったらどうなってたか」
「爆破直前に僕の精霊を感知して、雪くんがシールドを張ってたんじゃないかな」
「……」
平然と返されて、反論できない。
恐らく、衣織が異変に気付かなければ、彼の言う通りになっていただろう。
すべてを見越した上で、問題なしと判断された行動なのだと分かってはいるが、どうにも納得できずに、衣織は愉快げに笑う碧を八つ当たりのように睨みつけた。
「それは兎も角、何故ここで合流を?予定ではラボで落ち合うはずです」
話題を現実に引き戻した神楽の面は、一変して強張っている。
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