自分たちと共に行動をする面々は、かつてレベル3に所属していた士官だと言う。

軍の中でも選抜された実力者たちなのだから、あまり心配するのもプライドを傷つけることになりかねない。

先に走り出した雪を追うように、衣織も地面を蹴った。

先行する三人の後を、反蒼牙派の士官たちが僅かに遅れて続く。

今回の作戦では主戦力となる面々が二手に別れていた。

一刻も早く花突へ到達しなければならない雪のチームには、当然ながら衣織が組み込まれ、士官対策と道案内を兼ねて神楽も加えられた。

火澄と碧の二人は、妨害に入るイルビナ兵の撹乱に当たっており、今なお随所で轟く爆発音は彼らによるものだ。

衣織が敵だとすれば、このペアだけには遭遇したくない。

だが、一つだけ気がかりな点もあった。

「あいつ、大丈夫なのか?」
「どなたのことですか」

走りながら疑問符を投げる。

「碧だよ。……腹やってるだろ」
「……いつ気付かれました」

前方を見据えていた神楽の瞳が、チラリとこちらを流し見た。

宵色をした虹彩の放つ、刺さる眼光に確信を得る。

「劇場で再会したとき、違和感があった」
「最初からですか。あれだけ平然と動き回っていたのに、よくお分かりで。雪さんもお気付きでしたか?」
「いや」

短く応じた雪の面には、僅かに驚きの色が乗っている。

これが普通の反応に違いない。

負傷していることなど感じさせない動作と態度だったのだ。

見抜いたのは衣織くらいのものだろう。

相手の弱点を真っ先に探してしまう己の習性を、心内だけで皮肉げに笑う。

「総本部からの逃走時に、負傷されました。今は容体も安定していますが、傷口は開きやすくなっているはずです」
「あんたは向こうに着いた方がよかったんじゃないのか」
「私がいた方がかえって足手纏いになります。それに負傷してなお、自分より強い人間を守るほど酔狂ではないんです」
「化け物だな」

容赦なく言い切った雪に、神楽は「化け物です」と即答する。

彼とてイルビナの少将に任じられた逸材だ。

武官として十分通用するレベルの戦闘力を保持しているのに、碧の実力は傷を負ってもまだ神楽を上回るなんて驚愕を通り越して戦慄する。

「腹部の傷は決して軽いものではありません。ですが、重傷を負ったままあの化け物は、一個分隊と戦闘を行いました」
「結果、あえて聞くべき?」
「聞きたいんですか?」
「……予想通り過ぎて泣きたくなって来た、俺」

大方、子供をあしらうが如く退けたのだろう。

そんな相手と一度きりとは言え切り結んだ事実に冷や汗だ。




- 524 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -