嘲るでもなく淡々と説明をする火澄だったが、美しい面には隠しきれない痛みが滲んでいる。

「自分の夢ばかり追いかけて、無茶な命令をするなんてね。……父さんらしくないよ、本当に」
「火澄……」
「ほら、見える?舞台の上に神楽たちがいるでしょう」

痛ましげに眉を寄せた衣織に気付かぬふりで、火澄は感傷を消すと平生と同じ微笑みをこしらえた。

蒼牙と対峙すると決めたのは火澄だ。

どれだけ苦しむことになろうとも、他人の手に頼るつもりはないのだと悟って、少年は大人しく階下へと視線を向けた。

言葉の通り、広々とした舞台には二つの人影があった。

ライトに照らされて一層艶めく宵色の髪と緑の短髪は、遠目からでもよく分かる。

「碧は下士官受けがいいからね。統制を取らせるにはいい人材なんだ」
「神楽は?」
「作戦の説明は碧にさせるより、彼の方が安心できるでしょう。情報漏洩を防ぐ圧力のかけ方も、神楽の方が上手だからね」

これだけ大規模な反逆者の集団となれば、もはやクーデターと言っても差し支えない。

人数が増えれば増えるほど秘匿性は薄れて行くし、元帥側からスパイが紛れこんでいないとも限らないのだ。

繊細な情報操作や工作の得意な神楽の能力は必要不可欠だろう。

「民衆の支持は?」
「先日、街中でちょっとした市民の暴動があってね。そのときに少し大きなことをやって来たし、問題はないよ」

雪の質問に振り返りながら答えた男は、「支持率ゼロの軍が相手じゃ、難しいことではないしね」と笑ってみせた。

クーデターの成否には、民衆からの支持が大きく関係して来る。

例え現在の蒼牙体勢を崩壊させたとして、レッセンブルグの人々が火澄たちに反発してしまえば、蒼牙を擁護する第三勢力が発生しないとも限らない。

こちらの正当性を確立するには、一般市民からの強い支持がなくてはならなかった。

「各支部には元帥の行動と街の現状を通達してあるし、支部の中で最大規模の第二司令部は碧のシンパみたいなものだから、反発も抑えられそうだ」
「なんだよ、それ」

傭兵から中将と言う異例の出世を遂げた男が、下級士官たちから慕われるのは分かるが、一つの支部が碧の信奉者で構成されているなんて信じられない。

衣織の疑問を解消したのは、扉を開けた入室者だった。

「あいつがまだジェノサイド・ランスだった頃に、南方で反乱があったんだ。そこでの活躍が決定打になって、軍に入ったってわけ。中将になるまでは、向こうで司令もしてたし、第二司令部とあいつの繋がりは結構深いんだよ」
「玲明っ」
「数日ぶり、紅。怪我もなさそうだし、安心したわ……いやもう、本当に安心したよ俺」

別れたときと異なるのは服装ぐらいで、玲明は以前と変わらぬ様子で立っていた。

心底安堵したという風に息をつかれ、それほど心配をかけてしまったのかと、申し訳なくなる。

「勝手にお前の傍離れたのは俺だけど、かなり心配だった」
「ごめん。けど、雪の故郷にいたか――」
「もしお前になんかあったら、紅馬鹿の皇帝にどんな目にあわされたかっ!」
「……」
「クビにされるだけならまだしも、俺、しばらくタブリアに戻れないんじゃないかって思ってさぁ」
「……あんたってそういうヤツだよな」

純粋に衣織を気にかけていたのではなく、自己保身だったかとこちらの方が嘆息だ。




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