閃いた銀の輝きに、碧は素早く飛び退いた。

危うく切断されるところだったのは、指どころか手首だ。

神楽の手中に魔法のように現われたナイフは、威嚇するように男へ切先を向けている。

今度こそ脅しではなく実行してのけたこちらに、相手は寸前までの艶めく気配に代わって、全身から不服を訴えていた。

「罰が欲しぃんじゃねぇのかよ」
「それとこれとは、話が別です」
「え?」
「え?」

分かり切ったことを訊くな。

何の躊躇いもなく返したのだが、驚愕で瞠られた翡翠に、言った本人まで驚いてしまう。

予想を超えた衝撃をくらったかのような面持ちを前にして、何かを間違えたかと発言を巻き戻す。

途端、碧らしからぬ表情の原因が判明した。

しまった。

カッと頬に朱が走り、口が勝手に動き出す。

「違いますっ、違います。誤解です」
「……いや、だってお前、だからこの前」
「黙って下さい、喋らないで下さい、言葉のアヤです」

落ち着け、取り乱すな。

声を荒げても早口になってもならない。

これでは肯定しているようなものではないか。

先日の無抵抗が、罪悪感とも贖罪意識とも関係していないのだと、認めているようなものではないか。

碧に仕掛けられた不埒な行いを、途中まででも受け入れてしまったことと、傷の問題とは別件であると告げているようなものではないか。

負い目から来る無抵抗なのだと指摘されたとき、咄嗟に否が出かかったけれど、別問題であると口にしてはならなかった。

だってそうだろう。

関係がないのならば、神楽はなぜ大人しく牙の熱を受けたと言うのだ。

理由が、ない。




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