末端まで行き渡った将校の反逆は、大きな動揺を生んでいるらしい。

通信機器を破壊し尽くした男は、それまでの素早い動きを止め、気品さえ窺える様子で悠然と佇んでみせた。

「何やってるんですか!大将さんっ」

自分の担当を的確に処理し続けながら、玲明が声を張り上げるが、動く素振りもない。

襲撃の衝撃から回復した士官たちは、格好の標的となった火澄の周りをぐるりと取り囲むも、やはり戸惑いは明らかで二の足を踏む。

これまで仕えて来た相手に、剣を向けて果たしていいものか。

美しい存在を中心に渦巻く混乱に、やがて耐えかねたように士官が叫んだ。

「え、苑麗大将!なぜ、貴方がっ……」

誰よりも忠誠心厚く、元帥の手足となっていたからこそ向けられた問いかけに、火澄は思わず見惚れてしまう匂やかな微笑を浮かべた。

「もう、「大将」じゃないよ」

途端、士官たちが揃って抜刀していたサーベルが、紅蓮に包まれた。

「うわぁっ!」
「ひっ……」

元上官が術師であると知っていても、攻撃対象になった経験があるわけではない。

煌々と燃え盛る刃を次々と放り投げる男たちは、今初めて身を持って将校の戦闘力を実感したのである。

火澄は浮足立った士官の包囲をいとも簡単に抜けるや、一丸となっている彼らの周りにも炎の檻を作り上げた。

誘き寄せられたのだと気付いたところで、もう遅い。

行く手を阻む絶対的な壁を前にして、士官たちに打つ手はなかった。

僅かばかりの取り零しを玲明が片づけたのと同時に、炎は隆盛を極めた。

士官たちの目にはもう、こちらの姿すら映っていないだろう。

「ごめんね」

ささやかな謝罪は、彼らの元上官としてのもの。

期待を裏切ってしまった罪悪感を、少なからず覚えていた自分に苦笑する。

予想外の感傷は、閉ざした目蓋を持ち上げたときには消失していた。

現われたのは、強固な意志を宿した緋色。

片膝をつき白い手袋を外して、直に地面へと掌を押しつけた。




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