まさかの思いは、火澄の抱く空白の回答欄をきれいに埋めてしまった。

「……復興作業を、後回しにしているかもしれない」
「大将さんたちの捜索を、優先しているってことですか?」

察した男の言葉に首肯を返す。

信じたくはないが、事実であれば辻褄が合う。

数日も経たぬ内に嗅ぎ付けられた隠れ家、僅かばかりの港の兵士。

国を守るべき元帥が、首都の回復よりも反逆者の捕縛に人員を割いているなんて。

己の知るこれまでの蒼牙ならば、絶対に選ぶはずのない統治者らしからぬ命令に、義父の心情を思い知る。

蒼牙は憎いのだ。

従順な手駒であったはずの火澄が、理想を踏みにじり裏切ったことが、赦せないのだ。

揺れる命の灯が消える前に捕え、自らの手で処罰を下したくて堪らないから、国を放り出しているに違いない。

首都の復興が着々と進んだのは火澄たちの尽力によるものだが、首都の復興が滞っているのもまた、火澄たちのせいであった。

今なお衰えぬ父への愛情が訴える痛みを、甘やかな香りさえしそうな笑みで殺した男は、一拍を置いてから背後の情報屋に視線を流した。

「元帥のお陰でせっかく警備がぬるいんだ。行くよ?」
「えっ、ちょっと!」

唐突なGOサインへの戸惑いを無視して、男は足音もなく造船ドッグの影から飛び出した。

奇襲で鍵となるのは、隠密性とスピードだ。

身を低くして疾走しながら小さく指を打ち鳴らすと、地面を這う導火線のような細い炎がチリチリと微かな音を立てて走って行く。

積み荷を運搬する士官たちは、ライトの光りが届かない闇に紛れた火澄たちに気付いておらず、蛇の如く迫る危機も察知していない。

不十分な警戒の内に、それは起こった。

港を海側と二分割するように引かれた絹糸の炎が、一気に燃え上がるや緞帳のように広がったのである。

絶妙なタイミングに、車両と切り離された士官は少なくない。

前触れもなく噴き出した業火に、誰もがぎょっと目を剥いて慌てふためく。

その隙をついて、二人の男は暗がりから明るく照らされた世界へと躍り出る。

車両側に残る数人の兵士たちは、続けざまの非常事態に対応が遅れた。

玲明は素早く四輪に迫ると、運転手を殴り倒しながら無線を破壊。

火澄がパンッと強く手を打ち鳴らせば、他の車両の無線機がゴウッと赤く燃えた。

本部への連絡手段を完全に奪う。

「あ……え、えん、苑麗大将っ……!」

鮮やかな輝きを放つ火精霊によって、夜闇に浮かんだ人影に、下級士官の一人がようやく気付いた。

相手は愕然とした表情で、どうにかサーベルを引き抜いたものの、震える刃には躊躇いが見て取れる。




- 496 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -