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視覚から入った情報を、脳が上手く処理をしてくれない。
しかし、少年の事情に構わず儀式は進んで行く。
「花の御許に眠れ」
もう一度、雪の声が辺りに響いた、と認識した時には。
まるで水面のように波紋を描いた大地に、黒水晶が飲み込まれていた。
理解の範疇を超えている。
これは一体なんだ。
何が起こった。
驚愕の色で満たされた瞳は、ただ一人を見つめていた。
「終わったぞ」
「いや、終わったぞってアンタ……」
振り返った彼は、まるで何事も無かったような顔。
「……今の、なに?」
恐る恐る尋ねると「さぁな」と返された。
なんだそれは。
「さぁな、で済むかっ」と怒鳴ろうとして、思いとどまった自分は案外理性的で、衣織は内心だけで拍手をした。
どれほど興味を惹かれても、真相を知りたくても、聞いてはならない。
追求すれば否応なしに、彼のバックグラウンドに触れることになる。
それだけは御免だった。
当初感じた『厄介事』の臭いは、今ので決定的になったのだから。
下手に足を突っ込んでは火傷をしてしまう。
好奇心を理性で捻じ伏せ、衣織は大きく息をついた。
彼との雇用契約は、街に戻った時点で終了する。
己の平穏な日々のために、これ以上の介入は出来なかった。
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