視覚から入った情報を、脳が上手く処理をしてくれない。

しかし、少年の事情に構わず儀式は進んで行く。


「花の御許に眠れ」


もう一度、雪の声が辺りに響いた、と認識した時には。

まるで水面のように波紋を描いた大地に、黒水晶が飲み込まれていた。

理解の範疇を超えている。

これは一体なんだ。

何が起こった。

驚愕の色で満たされた瞳は、ただ一人を見つめていた。

「終わったぞ」
「いや、終わったぞってアンタ……」

振り返った彼は、まるで何事も無かったような顔。

「……今の、なに?」

恐る恐る尋ねると「さぁな」と返された。

なんだそれは。

「さぁな、で済むかっ」と怒鳴ろうとして、思いとどまった自分は案外理性的で、衣織は内心だけで拍手をした。

どれほど興味を惹かれても、真相を知りたくても、聞いてはならない。

追求すれば否応なしに、彼のバックグラウンドに触れることになる。

それだけは御免だった。

当初感じた『厄介事』の臭いは、今ので決定的になったのだから。

下手に足を突っ込んでは火傷をしてしまう。

好奇心を理性で捻じ伏せ、衣織は大きく息をついた。

彼との雇用契約は、街に戻った時点で終了する。

己の平穏な日々のために、これ以上の介入は出来なかった。




- 45 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -