「お前の中に宿るはずの華真族の力は、すべてこの短刀に封じられている」
「え?」
「急に戦えるようになった自分を、不思議には思わなかったか」

ドクンッ、と。

鼓動が高鳴った。

図星だった。

反乱軍に両親を殺害されるまで、衣織はどこにでもいる子供に過ぎなかった。

それが、たった二年で紅の戦神だ。

特別な鍛錬を行ったわけでもなんでもない。

ただ、短刀と共に戦場駆け抜けて来ただけで、それ以前は取っ組み合いの喧嘩くらいしかしたことがなかったのに。

突然、圧倒的な戦闘力を振るうようになった自分自身に、疑問と共に恐れを抱いた。

極限状態にあった当時、その不可解な点にまで目を向ければ壊れてしまうと、あえて直視することはなかったが、真っ向から対峙しなかった分、現在まで尾を引いてしまっていた。

ダブリアで玲明に踏みこまれかけたとき、あれほど露骨に動揺してしまったのは、そのせいでもある。

「華真族は、精霊の民であると同時に戦闘の民だ。本能的に術を使った戦い方を心得ている」
「……」
「この短刀の中に封じられているのは、お前の「華真」だけではない」
「俺の、だけじゃない?」
「あぁ、僅かだが異なる花の力を感じることが出来る。恐らく、お前の母親のものだろう」

まじまじと見つめた短刀は、変わらず艶やかな輝きを見せるだけだ。

この中に、自分と母親の華真族としての力がある。

理解の範疇を超える話のはずが、何故だか素直に納得できた。

術において他の追随を許さぬ実力を誇っていた母、織葉は、ダブリアへ渡り自身の金色の眼と白銀の髪を別の色に変えた。

その方法が、一本の短刀に華真族の力ごと封印するという手段だったら。

生まれた子供が華真族固有の色彩を有していたら。

自分の力を納めた刃に、子の力も封じることは十分に考えられる。

華真族の力と切り離されて育った衣織だったが、短刀を手にしたことで本来の、否、母親の力までも発揮することになったのではないか。

「華真の力と花石は切っても切り離せない。お前の胸の中に眠る花石が、短刀の力と共鳴したことで戦闘能力が目覚めたのだろう」

両親の墓として火をつけた家の柱から、爆ぜるように飛び出した短刀は、逃げようとしていた衣織の足元へと転がって来た。

ほとんど無意識にそれを掴んでいたが、すべては花の血のためだったのだ。

刃に満ちた華真族の血が、衣織の内側の花石に引き寄せられ、理性から解き放たれる戦闘時に母の分と合わさり爆発的な力を花開かせる。

だから、戦意ではなく自滅の意志で手にした短刀に、雪が確信を得ることはなかったのだろう。

「お前が火澄と戦っているとき、強い花精霊の使役を感じることが出来た。術の炎を切り裂いたり、防御出来たのは短刀のためだ」
「そっか……。なんか、納得した。すんげぇ納得した」
「そうか」
「うん。正直、怖かったんだよな。自分が戦えることが。けど、知らない内に花精霊を使役していて、知らない内に本能的な戦闘能力を使ってたって分かって、なんか安心したかも」

本来ならば、花精霊の使役による戦闘方法も、短刀という異例のものに宿らされたせいで、それに準じた戦い方に変貌したのだ。

戦神として血潮の嵐を巻き起こしていた時分、まるで己が己でない感覚に陥っていたのは当然なのだ。

短刀で命を刈り取る衣織は、短刀の存在を知らなかった十三年間の衣織ではなく、華真族としての衣織だったのだから。

場数を踏むうちに、いつしか本当に実力を身につけ、今のように短刀に頼らずとも十分に戦える手練へと成長していた。

長い間、抱え続けていた疑問の解消に、衣織は晴れやかで穏やかな微笑を口元に乗せた。




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