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近づくことのみならず、見つけることも無理とは、一体どういうことだ。
驚きで目を見張りつつも、衣織の脳は今まで得て来た情報を思い出していた。
華真族だけに赦された大地、天園。
つまり、彼らだけが持ち得る特別な何かがあると言うこと。
銀の髪、金色の眼、そんな外面的なものではなくて、もっとずっと重要なものがあるではないか。
「花精霊の影響か?」
対面の男は静かに頷いた。
やはり、と言ったところだ。
「この島は花精霊の加護を受けているからな。華真族の者以外の瞳には映らないし、寄せ付けない」
「ちょっと曖昧すぎじゃねぇ?」
「……一説では、俺たちの胸にある花石に反応している、とも言われている」
なるほど。
それならば少しは具体的であるし、納得出来た。
ふむと頷いて見せた衣織だったが、はっと気付いた。
完全に雪へと向き直り、真っ白なローブの肩を両手で掴む。
「それってつまり、半分だけ華真族の俺の心臓にも、花石があるってことだよなっ?」
「恐らくな」
「アンタ、貴波の爺さんが昔話してくれるまで、俺の母さんがここの人間だったって知らなかったんだよな!?」
「そうだな」
「じゃあなんで、俺が天園に入れるって思ったんだよ!」
――お前なら、受け入れられる
イルビナ軍総本部から脱走する際、彼は少年にそう言った。
あの時点で、衣織の血筋を知らなかったのなら、どうして逃走先に天園を選択出来たと言うのか。
入ってしまえばここより安全な場所はないだろうが、如何せん入れる者はごく一部。
確信を持った雪の言葉は、すでに衣織の中に彼と同じ赤が流れていることを知っていたとしか思えない。
一体どうやって?
漆黒の眼を真っ直ぐに注ぐと、雪はするりとこちらの腰に掌を這わせた。
「ちょっ、なにして……」
すぐに離れて行った手に、安堵の息をつくことはなかった。
常にあった重りが消えたと、気づくのに時間はいらない。
戸惑う瞳に映すのは、雪に握られた一本の短刀。
鞘に納められたままの罪の証。
男は紡ぐ、揺るぎない瞳で。
「これが、お前の華真だ」
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