血。




「そう言えば、どうして俺はここに入れるんだろう」

台座に腰かけた男に背後から包まれた状態で、少年はポツリと疑問を洩らした。

落ち着きを取り戻してからも、花突から離れがたく、二人ぼんやりと身を寄せ合っていた。

それは語られた雪の過去を呑みこむための時間でもあり、雪に己という存在を再び確認させるための時間でもあった。

雪は衣織の右手にある蛍の花石を受け取りながら、常よりもずっと穏やかな声音で返答をした。

「簡単なことだ。お前の母親が俺たちの同胞であったからだ」
「でも、父親は違うだろ?」

華真族の島である天園から、脱走をした衣織の母だが、父は恐らく白銀と金色の民ではない。

貴波の口から聞かされた「抜け人」の話しは、織葉一人だけであったから、父まで華真族である可能性は極めて低いはずだ。

「廻る者」に選ばれ、次代の族長に選ばれた雪は純血でも、自分はそうではない。

「ここに入れる一族の人って、もう雪だけなんだろ?俺なんかが入れるのって、変じゃないか」

先代族長も蛍もこの世を去ってしまった現在、花突の最深部であるここに踏み入ることが叶うのは、雪一人きりのはずなのに。

「不思議なことではない。蛍も始祖直系の純血ではなかったし、お前の母親は先代の娘だ。母の血が強いのなら花突に入れる」
「けど、俺は術師じゃないぞ。髪も目も黒だし、母さんの血が強いとは思えないんだよな」

顔の造形は明らかに母親似だが、色彩は父親のものを譲り受けた。

凄腕の術師だったという母が、自身の銀髪や金の目を別の色に変えていたとしても、衣織の漆黒は記憶にある母の茶色とは異なっている。

前髪を摘まんでまじまじと眺めても、華真族の特徴など欠片も見受けられない。

「あ、それにさ。天園ってどこの国にも属してないって言ってただろ?他の国に攻められることはなかったのか?」

そもそも、華真族に関してはまだまだ謎が多すぎる。

この島に降り立って、色々と雪の口から明かされてはいるが、すべての疑問が解消できたわけではなかった。

衣織は体を捻って、雪の煌めく一房を軽く引っ張った。

「他国に攻められることはあり得ない」
「なんでだよ。一大陸一国支配になったのだって、そう昔のことじゃないんだぞ?過去に攻められてたかもしれねぇじゃん」
「ないな」

きっぱりとした口調で言い切られた。

雪の召喚した風精霊に導かれるまま、天園へと到達してしまったから、ここが世界地図のどの辺りに位置しているかはさっぱり分からないけれど、現在までで他国に発見されないでいるのは不可能だ。

世界規模の戦争は、約百年ほど前に集結したばかりなのだし、その際に少しでも領土を広げようとした各国から、攻撃を受けていたのではないかと考えたのだが。

「この島は華真族の者以外には、降り立つことは愚か、近づくことも出来ない」
「は?」
「そもそも、見つけられないだろう」
「なんだよそれ!」

お返しとばかりにこちらの黒髪を弄りながら、彼は平然と言ってのけた。




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