「汝は血を受け継ぐ者として、背負いし罪を贖うことを誓わねばならぬ」
「是」
「汝は花を宿す者として、遍く命に許しを請うことを誓わねばならぬ」
「是」
「汝は世界の罪人にして咎人であることを知り、悠久の懺悔を絶やさぬことを誓うか」
「華の血と名にかけて」
「汝を新たな「廻る者」として、此処に刻もう―――雪=華真」

先代が没して数日。

神殿で執り行われた継承の儀式は、限られた数名の者のみが参列を許され、粛々としたままにすべてが終了した。

長い歴史の中で初めて、直系で族長になれなかった男も儀式に顔を出していたが、遺言を読み上げるときにも異を唱えず、息子が頂点に君臨することに対し、一切の反応をみせなかった。

予想では年齢や慣例を持ち出し、どうにかして雪から族長継承を取り上げようと足掻くと思ったのだが、驚くほど大人しい。

白貴の中で何か変化でも起こったのか。

晴れて「廻る者」となったものの、今ひとつ腑に落ちず気味が悪い。

それはこのまま父親と呼べる相手を殺してもいいのかと、迷いを生み出すほどだった。

親子らしい交流など記憶に残っている限り一度もないが、先日死んだのは族長である前に祖父であり家族。

祖父の死は家族を手にかけることへの躊躇となった。

馬鹿な。

生かしておけばいずれ自分にも蛍にも害となるだろう。

花神という大義名分のうちに、始末するべきだ。

何度となく自身に言い聞かせるも、それは何度となく彼の決意が揺らいだ証でもある。

定まらぬ想いを抱えていても、夜は来る。

「廻る者」に着任した日の夜が、花神を決める慣わしだ。

常ならば随所で宴が開かれている本殿も、今夜だけは静まり返り閑散としている。

勿論まったくの無人であるはずもなく、本殿に住まうことが出来る華真の血が濃い者たちは、自分が花神に選ばれぬことを祈りながら、一人回廊を進む雪の動向を、息を殺して窺っていた。

誰の影もない通路に、唯一の足音が響く。

並ぶ扉の内側では、死神の来訪のように感じているだろう。

夜目に眩しい白のローブを纏った男は、秀麗な面を自嘲で歪めた。

この夜を警戒して、蛍には花突へ隠れておけと言いつけてある。

今生きる者の中で入ることが叶うのは、彼女を除けば自分だけだから、あの場所が天園の中でもっとも安全だ。

何の心配もなく花神を選べるはずなのに。

雪の胸中はやはり落ち着くこともなく、本当によいものか自問自答を繰り返していた。

腐っても白貴は家族。

先代と同じように、いや先代よりも遺伝子的には近い相手。

殺して自分は、後悔をしないのか。

例え最初はそのつもりだったとして、本当に家族を殺して自分は自分を赦せるのか。

生まれて初めて殺す相手が、父親でいいのか。




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