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分厚い手袋をはめた両手でしっかりとロープを握ったまま、外壁に二三度足をつけるだけで地上へと落ちるに任せる。
摩擦で生じる嫌な臭いが嗅覚を刺激したが、無視。
アクションに見合わぬ小さな着地音で大地に降り立つと、起動していた五感を全開にした。
植え込みと震災で倒壊した隣接する建物は、こちらの姿を隠してくれるが敵にとっても同じことだ。
張り詰めた神経で周囲の様子をくまなく探った。
無人。
よかった、こちらまで追っ手は回りこんでいない。
だがそれも時間の問題だ。
起爆の術札は、敵の侵入を教えてくれると同時、こちらが潜伏している可能性が高いことを相手に示唆する。
すぐに上方に合図を送ると、まず火澄が、続いて碧が降りて来た。
負傷しているとは思えぬほどしっかりとした動きに、やはり中将は化け物だと思う。
最後に玲明が降り立てば、火澄の指がパチンッと鳴る。
下方からロープを燃やし這い上がる業火は、蛇のように外壁を伝いそのまま四階まで到達。
瞬間、一際大きな爆発が足場を震わせた。
スタートランプの点灯さながら、四人は一斉に方々へと駆け出した。
明日の零時に、すべての顔が揃うことを願いながら。
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