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注目に晒された男は、緑の短髪をガシガシとかくと、呆れ半分にサラリと答えを出した。
「今さらだろ。お前らがやるのに、どうして俺がやらないことになる」
参戦の、表明。
広くもない部屋に、奇妙な沈黙が落ちた。
「……あれ?」
「なんだ」
「いやー、意外に僕ら愛されてるなって思って。ねぇ、神楽」
「……愛かどうかはともかく、戦闘と色事にしか興味のない碧中将がそう仰るとは、予想していませんでした」
「いやいやー、これは愛でしょう。やっぱり。丸くなったねぇ、碧」
感慨深げにうんうんと頷く火澄を、男は不機嫌に睨み付けるが仕方ない。
神楽とてこの戦闘狂が反乱に加わるとは、思ってもいなかったのだから。
平生の碧を鑑みてもそうだし、怪我を負った身であるのだから当然だ。
驚いたのは軍人たちだけではなかったようで。
「いつから仲間思いになったんだ?」
「うるせぇ」
「ジェノサイド・ランスがねぇ……」
「なんだ、玲明」
「いや、―――――」
意味ありげな視線を送る情報屋は、碧の耳元で何事かを囁いた。
一体どんな会話がなされたのか、神楽たちには勿論聞こえない。
気になりかけた己を律するように、少将は直属の上官へ説明の再開を求めて、叶わなかった。
ドンッ!と凄まじい轟音が、隠れ家として使っているアパートメントの階下から上がったのである。
建物全体に揺れが走り、テーブルの上の救急セットがガチャンッと耳障りな悲鳴を立てる。
エントランスに仕掛けた火澄の術札が、発動したと全員が悟るのに要した時間は僅か。
碧がベッドから飛び起き紅のジャケットを羽織る、玲明がコンピューターを閉じて窓から外の様子を窺う。
神楽はリビングにあったジャケットに袖を通しつつ、真っ先に部屋を出て、慎重かつ迅速に予め用意していた逃走経路を確保した。
アパートメントの廊下の突き当たりに、ガラスの抜けた窓が一つ。
閉塞感のある通路にぽっかり口を開けた外界へ繋がる四角から、四階下の地上を見下ろした。
「見つかっちゃったみたいだね」
背後からかけたれた火澄の声は、状況にまったくそぐわない暢気なものだったが、振り返った先でぶつかった双眸は硬質な色をしている。
その後ろには後から出てきた碧が一人で立っていて、最後尾の玲明が階段を警戒。
軍に踏み込まれた際に備えて、建物内に用意したトラップは四つ。
二度目の爆音が、鼓膜を揺らす。
「まとまって逃げるのは大変だろうから、一先ず散ろう。明日の深夜零時に予定場所で落ち合う、いい?」
「了解」
短く応じるや、少将は窓枠にしっかりと括りつけたロープを持って、建物から空中へと身を躍らせた。
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