反逆者たち。




真実を知り自由に動けるのは、反逆者として追われる自分たちだけ。

「この世界の崩壊を食い止めたいっていうのもあるけど、何より僕は元帥を止めたい。もともと次期当主といっても末端の出だからね。義父さんに縁を切られても問題はない」
「ソレで言ったら、少将さんはどうなのよ?あんただって翔庵の人間だろ。三男だけど」

玲明の言う通り、中小とは言え神楽も貴族の一員だ。

絶縁を願い出たところで、蒼牙が家に手出しをしないはずもない。

しかし少将は大丈夫ですと、苦笑を浮かべた。

「この時期、レッセンブルグの屋敷に家の者はいません。領地で過ごしていますから、他に人を裂く余裕のない現在の軍が、あの辺鄙な土地へ兵を差し向けることはないでしょう」
「……そう、ならよかった」

火澄は一呼吸の間、探る光りを宿した鋭い緋色の瞳でこちらを射抜いたあと、にっこりと華やかな表情を作った。

神楽は内心だけで息をついた。

首都の屋敷に家人が誰もいない、それは事実だ。

通年で一族の者が誰もいない時期など、本来ならばあり得ない。

貴族が領地とは別に総本部のある首都に屋敷を建て住まうのは、軍へ叛意を抱いていない忠誠の証でもある。

中央の目の届かない領地に引っ込んだままでは、何事か企てていると疑われる一因になる。

だが、翔庵の人間はレッセンブルグにいない。

蒼牙の目的を知った直後、神楽は家族に本宅へ帰るよう指示を出したのだ。

今では火澄も蒼牙と対立しているが、元帥の寝室から二人の話を盗み聞いたときは、現在の状況など予想もしなかった。

近いうちに『花』開発を中断させるための工作を行うつもりだった身としては、弱点となり得るものを避難させる必要があり、先手を打っておいたのだった。

火澄を裏切ろうとしていた本心など、明かすはずがない。

「でだ。ダブリア側の俺も、大将さん、少将さんもイルビナ軍と敵対するわけなんだけど……」

当人同士しか分からぬ緊張は、本題の流れに乗って消えた。

玲明の言葉を引き受け、大将はその眼を神楽から外し、ベッドヘッドにもたれる男を見やった。

「君はどうする?碧」
「……あぁ?」
「君には護るべき家族もいないし、元帥や軍に思うところもない、世界の終焉なんて当然興味ないでしょう」

随分な言い草だが碧は反論しない。

図星なのだと、部屋にいる全員が分かっている。

「怪我が完治していなくても、動けるようにさえなれば逃げられる、君一人ならね」

碧にはこの反乱に参戦する理由がないのだ。

傭兵出身だから貴族である神楽みたいに気にすべき家もない。

イルビナという国の行く末を、憂うほど愛国心の強い軍人でもない。

蒼牙を過去に名を挙げた老人くらいにしか思っていないことは、これまでの態度から察せられる。

世界崩壊など眼中にあるのかどうか。

戦うも抜けるも、自由だ。




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