火澄の副官となれば否が応にもなし顔を合わせる機会はあって、その都度言われる戯言に神経がきりきりと痛んだ。

なのに。

隠したりするから。

助けたりするから。

名前を呼んだり。

あんな声で名前を呼んだりするから。

倒れる体に鼓動が冷えた。

庇われた己が憎らしくて堪らなかった。

いつもの微笑も建前も、理路整然とした思考だって破壊されて。

碧のせいでおかしくなってしまうと、認めるしかなかったのだ。

泣き崩れてしまうなんて、一生の不覚。

様々な要因が絡み合って、張り詰めていたものが切れてしまったと理解していても、以前のように視線を合わせて嫌味を投げ返すには、時間が足らない。

無理やりこしらえた鉄面皮と取り繕った平静など、指摘された通り緊張に支配されたこの身を護るには、あまりに不十分。

包帯を巻く関係で、彼に抱きつくような体勢でいるのも、心臓を打ち鳴らす要因の一つだ。

極力体を離してはいるが、これ以上この場にいたら、どんな醜態を晒すか知れない。

軽口は無視してさっさと治療を終えてしまおう。

じっと注がれる視線を意識しないように目一杯努力して、神楽はようやく包帯を巻き終えた―――瞬間。

「なっ……!?」
「まだ行くな」

素早く掴まれた両腕を引き寄せられ、バランスを崩した体は寝台に乗り上げてしまう。

倒れこんだ先は当然碧の胸で、シャツを脱いだ素肌に頬がぶつかった。

だが、朱色に染まりかけた神楽の面は、どうしたことか蒼白に変わる。

バッと体を退けると、慌てて白に覆ったばかりの腹を確認した。

よかった、ぶつかってない。

安堵で肩の力が抜けるも、即座に身の内がカッと熱くなった。

「何を考えているんですっ、もし傷に接触していたらどうなるか分かっているでしょう!」
「俺の知ったことじゃねぇな」
「馬鹿なことを言わないで下さい。まともな設備も整っていないんですよっ?これ以上貴方の身に何かあったら……」
「何かあったら?」
「っ……」

やられた。

怒りのままに説教をしたせいで、神楽の瞳はしっかり碧の視線を受け止めてしまっている。

急速に呼び戻される平静が現状理解を進行してくれて、顔に熱が集まって行く。

「……貴方の悪ふざけに付き合う理由はありません」

一体自分はどんな顔をしているのだろう。

知りたいようで、知ってしまったら自己嫌悪に浸るだろうとも予想できる。




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