脅迫に使いたくとも、居場所の見当すらつかないままでは、どうにもならない。

長きに渡って雪を苦しめていた魑魅魍魎は、抑え続けた本心を露にしたことで、いとも簡単に退けられたのだ。

手を触れることさえ叶わなくなった雪は、取り込み操るべき対象から、孤高の存在に変わった。

圧倒的な実力と、神秘的なまでの容姿。

犯すことの出来ぬ絶対の輝き。

あの冷たい瞳に映して欲しいと、変わらぬ無表情を向けてもらいたいと、若い者を中心に恋焦がれる者が続出したのは間もなくのこと。

ある種の信仰にも似た熱狂的な想いは、これまで雪が晒されてきた利害とただれた欲求のみで構成されたものとは別物だ。

恐ろしいほど献身的で、憐憫を誘うほど従順な感情。

雪はそれを利用した。

少し口元を緩めてやれば、頬を真っ赤に染める女。

何を言わずとも、見つめるだけで上擦った声を出す男。

純粋で狂信的な彼らは、雪のいい手駒になった。

花突の最深部に隠しておいた蛍を、そう長いこと地下に閉じ込めているわけにはいかなかったのもある。

言い寄る者を篭絡し、蛍の守護に当らせた。

時に囁いて、時に口付けて、時に組み伏せてやることで、逆らうことの出来ぬ駒を増やした。

「あっ……はぁ、雪さ、まぁ……」

耳障りな嬌声が鼓膜を打つ。

湧き上がる嫌悪感を堪え、胃液を留める。

自分の体を使うことに、抵抗はなかった。

これまで歩んで来た道を考えれば、今更惜しむようなものでもなかったから。

色に塗れて穢れた身だ、これ以上堕ちる先はない。

たった一回関係を持つだけで、蛍を護る壁が増えると思えば、体を繋げることは有効な手段でしかなかった。

胸に渦巻く不快は黙殺する。

作業的にこなすだけ。

見下ろす雪の瞳が冷えたままでも、彼らは一向に構わないのだから。




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