■※
「あの子は知っているのかしら?自分のために、大好きなお兄様が慰み者になっていること。貴方が私たちに体を預けている限り、あの子はお綺麗なままでいられるものね。蛍だなんて、いい名前。貴方の力がなければ、この島ですぐにでも命の灯が消えているくせに」
「やめ…ろ……お前が、お前が……その名を口にするなっ……っ!」
叫んだ途端、快感を煽る手が威力を増した。
呼吸を乱しながら傾いた体は、女の腕に抱き寄せられる。
豊満な胸が押し付けられても、抗うことも出来ない。
「そんなことを言っていいの?あの子くらいの力量なら、誰でも始末出来るのよ」
「はっ……っぁ」
「いい顔。ねぇ雪、雪様?私なら、あの子を狙う輩を退けられる。それだけの地位にもいるし、力もあるわ。この先、貴方一人じゃあの子を守れないでしょう」
「う……さいっ……だま……んっ」
今にも崩れそうな膝を、しなやかな地精霊の手が赦さない。
ローブをめくり、女の顔が下へと落ちる。
胸元に吸い付く唇の、その横には別の痕がいくつも散っていた。
汚い体。
何よりも汚い体。
毎日のように繰り返される、色に塗れた嫌悪すべき行為。
入れ替わるように相手は姿を変えて、時折誰を相手にしているのか分からなくなる。
最愛の少女を守るためでなければ、当の昔に雪は殺戮者になっていた。
「今でなくてもいいわ。貴方が次代になるそのときに、私を貴方の「花」にしてくれると約束してちょうだい。約束してくれるのなら、私の力であの子の安全を保障してあげる」
腹に落とされた内容に、霞がかっていた脳が冷静になった。
燃えるような内側の熱はそのままでも、廻る血が酷く冷たくなる。
少年の口元が、緩やかな弧を描いた。
「ねぇ、雪?私のことを……きゃっ!」
突如として弾け飛んだ拘束具に、相手は短い悲鳴を上げた。
こんな陳腐な術など、雪には存在しないも同じ。
ついに逆鱗に触れたのかと顔面を青くした伯母を、内心だけで思い切り罵りながら。
「ちょっ、ちょっとなに……っあ!」
板の木目に向かって女を突き飛ばし、彼女の足首を引っ張り寄せた。
肩に担ぎ上げて上体を倒す。
瞬く間に立場が逆転した事態を、組み敷いた存在は把握出来ずにいるようで、目を見開いたまま動きを止めている。
そんな標的を見据えて、少年は嫣然と微笑んだ。
「俺の「花」になりたければ、俺を本気にさせてみろ」
「なっ……んぁっ、あぁ……ぁっ」
いつから始まったのか。
堕落した日々、行為の種類も皆同じ。
相手を見下ろすか見上げるかの違いだけ。
何も変わらない、何一つ変化のない。
だってそうだ。
伯母の口にした台詞さえ、誰もが口にする言葉だったから。
妹を守れるのは、自分一人だ。
- 466 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]