□
「すげ……」
ただ雪を動かすだけの攻撃よりも、圧倒的に破壊力の強い術に、衣織は戦闘中であるにも関わらず目を見張った。
指揮官への道のりを邪魔する輩を、次から次へと蹴り飛ばし殴り飛ばし撃ち抜きながら、随分と減った敵の数を確認する。
障害となっていた最後の一人をいなせば、眇めた碧眼で雪を睨む女と直面した。
「術師か……厄介だな」
そう零すと、彼女は目前に迫るこちらへ急に意識を戻した。
「っ、らぁっ!!」
高い跳躍から頭蓋目がけて銃身を振り下ろす。
隙を狙ったはずの一撃は、恐ろしいまでの速度で鞘から引き抜かれたレイピアによって、受け止められた。
舌打ちをする間もなく、女は衣織の腹部目掛けて強烈な蹴りを叩き込む。
「っ!!」
ぐっと腹筋に力を込めて衝撃をやり過ごし、衣織は吹き飛ばされる寸前、驚異的なコントロールで引き金を絞った。
弾道は僅かにそれて、彼女の左肩を掠めた。
「くっ」
女の眉が悔しそうに歪む。
衣織はなんとか無事に着地をすると、痛む腹を無視してすぐに攻撃に転じた。
こちらは飛び道具。
距離を保てば明らかに有利である。
しかし、それをさせてくれるはずがないと、衣織は知っている。
立て続けに二発を放つが、横飛びにかわされてしまう。
だが、相手は体勢を崩してくれた。
好機。
追撃の一発を撃ち込もうとして、はたと気付く。
カチャンッと虚しい音が、鼓膜に入った。
弾切れだ。
リロードしている余裕などはない。
すぐさま決断を下し、自分から距離を詰めた。
そのスピードに、女の目が驚愕の色と共に見開かれた。
衣織は標的の傾いた姿勢を後押しするように、銃でこめかみを薙ぎ払った。
「っう……!!」
細い体が雪の上を滑る。
命の取り合いをしているときに、レディー扱いなどをしてやる中途半端さは持ち合わせていない。
更なる追い討ちをかけようと、風のように後を追った。
- 42 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]