柄にもなく咆哮を上げる少年を、老人はただ静かに金色に映す。

その凪いだ色に逆撫でされて、雪は全身から怒気を立ち上らせた。

ずっと昔から、抱いていた思い。

疑問や不満などという単語では、到底収まりきらないほどの荒く激しい感情を、目の前の男とて知っているだろうに。

奥歯を噛み締める音が、自身の鼓膜を叩く。

「俺たちが犠牲になる理由がないっ、「外」の奴らはのうのうと暮らして、俺たちだけが……俺たちだけがっ……」
「外の人間に、花石はない。身内に宿す華真族だけが、世界の礎――花神になり得るのだ」
「そんな宿命、誰が望んだっ!」

族長の台詞に吐き捨てるように返すや、雪は堪えきれずに走り出す。

「兄さんっ!」

妹の声が自分を呼び止めたけれど、足が前へ進むことを止めるはずがない。

世界各地に散らばる五つの花突。

そこから発生する花精霊のエネルギーは、この世界すべてを支える楔だ。

長い年月の内、弱体化した花突を放置するわけにはいかないと、彼とて理解している。

エネルギーを底上げする手段を持っているのは、自分たち花の流れを汲む者だけだと知っている。

だからと言って、生贄となるのが広い大地に溢れかえった生命の中、華真族だけという現状に納得することは出来なかった。

定期的に選出される「廻る者」は、一族の中で羨望と恐怖の対象だ。

族長になる始祖直系以外、いつ自分が生贄に指名されるのか分かったものではない。

一族の人間からすれば、「廻る者」はただの死神。

己が「花神」と呼ばれる生贄に選ばれぬよう、直系の動向を伺い機嫌取りに奮闘し、媚び諂う。

上手く取り入ることさえ叶えば、花神になることもなく、生命の保証がされるから。

通年穏やかな気候に恵まれ、清流のせせらぎと香る草花に満たされた天園。

外に出たことはないけれど、祖父から聞いた話ではこの孤島ほど美しい土地はないと言う。

だが、この表層的な美しさの下に蠢く、生と死の駆け引きは何より醜い。

唯一絶対の直系の下、繰り広げられる生存競争。

父親に当る男が、王の如し顔をしているのも、あながち間違ってはいなかった。

誰もが花神になることを恐れ、あの男に膝を屈しおもねれば、それは正しく独裁の王と臣下以外の何ものにもなりはしないだろう。

「ならっ、アイツを廻る者にすればいいんだっ……」

もしそうなれば、自分が真っ先に花神に指名されると理解していても、雪は言わずにはいられない。

自分が「廻る者」、次代の族長になると分かれば、「奴ら」の力は今よりもずっと凶悪になる。

少年の体に纏わり付く、魑魅魍魎。

取り入ろうと必死になる蛆虫。

「花神」なんてものがあるから、この島は伏魔殿となるのだ。




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