何かにつけて前例を持ち出し、現在を当てはめようとする。

例えそれが現実にそぐわないとしても、根拠にならぬ昔話を説いて無理やり適応させてしまうのだ。

変わらぬものなど、ありはしないと言うのに。

それほど過去に縛られた中で、何故に雪が次代に選ばれるのか。

少し考えてみれば答えは自ずと見えてくる。

「……「廻る者」が必要なんだな」

小さいながらも確信を持った少年の声は、広い空間に木霊した。

歓喜にはしゃいでいた蛍が勢いよくこちらを振り返り、再び祖父に視線を流した。

彼女の面から、ぴたりと無邪気な笑顔が途絶える。

「そうだ」

族長の返事は完結だった。

やはり。

実力のない者でも、過去に族長になった人間がいないとは言い切れない。

それこそ、因習を踏襲して来た華真族ならば、才の有無に関わらず始祖直系を問答無用で族長に祀り上げたはずだ。

だが、今回それが出来ないと言うのならば。

確固とした力が必要と言うのならば。

「いくら何でも早すぎる。族長が花突を廻ってからまだ四十年も経っていない」
「そうだ、だがお前とて気付いているだろう。花石が日に日に小さくなっていることに」

言われて、背後に浮かぶ黒い花石を仰ぎ見た。

そうだ。

確かに花石は、ここ数年の内に見る間に大きさを変えていた。

変化は明白で次第にそのスピードは速くなっている。

だが、短くとも百年は保っていた従来を鑑みると、廻る者が必要となった事態はあまりに異質だった。

「何かが、起こっているのか……?」
「花精霊のバランスを崩す要因が、どこかに生まれたんだろう。それにしてもこの速度は、楽観視出来るものではないがな」

遠い記憶を辿るように、目を細めて眼前の水晶を見つめる祖父を、睨みつける。

含まれる意思は、傍目にも明らかな憎しみ。

「俺を……廻る者に選ぶのか?」
「贖罪の儀式を、アイツが出来るとは思えないからな」
「そんなことは分からないっ」

僅かに声を荒げれば、妹の肩が怯えたように萎縮した。

分かっていながら、激情を止められない。

どうして止められようか。

「どうして俺なんだ、あんな役目を……。どうして、俺たちが「外」の奴らのために犠牲にならなければいけないっ」
「それが宿命だからだ」
「誰が決めたっ、そんなものを!何も知らずに精霊を使う「外」のために、何故俺たちだけが命を捧げなければならないんだっ」




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