憎むべきは。
不思議な煌きを放つ空間に、一人の少年がいた。
眩い白銀の髪を項を隠すほどに伸ばし、成長過程のやや骨張った体にローブを纏っている。
どこか張り詰めた空気を醸し出す彼の面は、神秘的なまでに美しかった。
冷めた金色の瞳で見つめるのは、少年の背丈ほどの黒い水晶。
台座の上に浮遊している物体は、一体誰の命なのだろうかと、考えながらも、いつかは自分も同じ姿になるのだと知っていた。
連鎖して思い出した人物に、気分が悪くなる。
あんな男に命を奪われるくらいならば、その前に自決した方がマシだ。
耳の奥にこびりついた罵声の数々が、静寂の世界で五月蝿かった。
無音のざわめきが破られたのは、次のとき。
「あー、兄さん見つけた!」
洞窟の入り口へ続く細い小道から、ひょっこりと現れたのは見知った顔。
ここにやって来る人間は自分を除けばたった二人だから、驚くことはなかった。
「みんな探してたよ?朝の祈りサボったって」
「……あんな形式的なものに出る気はない」
「心を込めないなら、形だけ出たっていいじゃない」
呆れたように言うのは、少年と同じ色の髪と瞳を持った可憐な少女である。
緩く波うつ長い髪と、長い睫毛に縁取られた大きな瞳の持ち主は、他を拒絶する少年の雰囲気を物ともせず、てくてくと近付いてきた。
「サボればサボるだけ、父上の攻撃材料になっちゃうって分かってるくせに」
拗ねたように言われても、少年の険しい顔つきは変わらない。
「アイツが何を言おうと今更だ。もう慣れた」
「でもっ!」
「それに……ここを出たら、余計なものまで纏わりついて来るだろうからな」
零した自嘲の呟きに、少女がビクリと肩を反応させた。
明らか過ぎるリアクションに、隠し事の出来ない性質がよく出ている。
少年はようやく表情を崩した。
「わざわざ探しに来てくれたんだな」
「……ごめんなさい」
「謝る必要はない。そろそろ上に戻るつもりだった」
「そんなことしたら、兄さんが……」
「さっきと言ってることが矛盾している」
クスリと笑いながら、彼女の髪を優しく撫でてやれば、自分の短慮を後悔するように少女は眉を下げた。
こんな顔をさせたくはないけれど、自分を取り巻く環境が赦してはくれない。
二人がいるのは、本殿から続く神殿の花突。
その最深部だ。
限られた人間しか足を踏み入ることが出来ぬ空間は、無数の視線から逃れるときに最適だった。
ここには、次期族長と目される少年たちの父親とて、入ることが叶わないのだから。
少年は少女から離れ、背後の黒水晶を仰ぎ見た。
「みんな知らないからな。アイツと俺の間に、家族の情など通ってはいないことを。知らないから、俺に取り入ろうとする。無意味な努力と気付かない」
「……」
「アイツは傍で監視しているだけだ。自分がここに入れないことを、俺が言いふらさないように。そんなことをしなくとも、誰に言うわけもないのにな……」
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