彼の語る「父親」が、衣織にとっての「父親」とはまるで別物であると察するのは、簡単だった。

含まれる意思は、侮蔑と嫌悪のみ。

雪にここまで嫌われる人間がいること、そしてここまで嫌われることをした彼の父親に対し、ドキリとする。

「祖父が死ぬとき、「廻る者」に選ばれたのは、俺だった。俺が遺言として指名された。父親は焦ったんだ。族長に選ばれなければ、いくら直系と言えど逃げ道はない。花石に命じられると、そう思ったんだ。俺はアイツを家族だと思ってはいなかったし、アイツも俺を目障りに思っていたからな。俺は当然のように、アイツを花石にしようと決めた」

つまり、世界への生贄にすることを決めたということ。

本当に雪の父親は、雪の中で僅かの位置も占めてはいなかったのだろう。

「だが俺は、もっと前にアイツを殺しておくべきだったんだ……」
「雪?」
「アイツは……俺がアイツの元へ出向いたとき、一つの花石を渡して来た。白く透明な花石を」
「まさか……」

凝視した男の顔が、痛みを堪えるように歪んだ。

「―――アイツは自分の代わりとして、蛍の花石を抉り奪ったんだ」




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