そして真実が語られる。




『もう一つは―――世界に命を捧げることだ』


染み入る水のように、じんわりと脳に浸透して行く言葉が、少年の言葉を奪った。

何を言われているのか。

回転の速い頭脳が今にも導きだそうとする凶悪な想像を、必死で堪える。

知らず両の手は己の体を抱き締めていて、小刻みに震える事実を実感させた。

見張られた黒曜石が、瞬きさえすることもなく、金色と絡み合う。

酷く静かな面持ちで、術師はこちらを見ていた。

その静けさは悲哀にも似て、荘厳な美貌を散り行く花の如く、儚げなものへと変貌させる。

彼の目に、今自分はどのように映っているのか。

硬直した体躯を抱く、怯えた子供だろうか。

あながち外れてはいない。

弾き出される解から逃げようと、足掻く自分は確かに真実に怯えているのだ。

けれど、萎縮していようとも。

彼の口から直接語られるのならば。

すべてを受け入れる覚悟は出来ていた。

雪が衣織の、すべてを受け入れたように。

「この世界は、花精霊によって保たれている」

殊更優しく話すのは、こちらを気遣ってのことなのか。

逃げられぬためなのか。

どちらでもいい。

彼が紡ぐ言葉は、どんな時でもこの耳から滑り込み、心を震わせるだけなのだ。

「各地に散らばる五つの地点から、花精霊は湧き出ていて、世界のバランスを取っているんだ」
「……」
「花精霊の供給が滞れば、この世界は崩壊する。だが、花精霊の力は悠久の時の中で極端に弱まり、バランスを保持出来なくなって来た」

世界の要とも言える精霊の力が低下すれば、均衡が崩れるのは必至。

雪の言葉が真実だとすれば、当の昔に世界は消えていたとしてもおかしくはない。

今なお、大地に足を着けていられるのは、何故なのだろう

答えを知りたいのならば、語り手の話をよく聞くことだと、衣織は知っていた。

「華真族の心臓には、核としてこの花石が埋め込まれている。花精霊の波動そのものが、人体の中で凝縮されたと考えられているが、事実かどうかは分からない。ただ、花石の力は絶大だ」

彼らの胸に眠る水晶。

色は違えど眩く煌くのは、生命の象徴に根を下ろしていたからか。

次の台詞は、衝撃に備える意味もないほど、圧倒的であった。

「花石を世界に捧げることで、花精霊の力を底上げすることが出来る。世界の均衡は、保たれる」
「っ……」
「花精霊が湧き出るポイントは、花突。廻る者は、弱まった花精霊に新たな花石を与える者を指すんだ」




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