我らが皇帝。




『ほぉ、それで?』
「いや、それでってアナタ……」

軽い調子に肩を落とせば、モニターの中にある人物は、大輪の花を思わせる美貌を愉快げに崩した。

ダブリア皇帝に繋ぎを頼まれたのが二日前。

意識は取り戻したものの、未だ全快とは程遠い碧の容態を診ている間、玲明はイルビナ軍に傍受されない回線の作成に勤しんだ。

結果、今しがた己が仕える女帝に火澄の打診を伝えることは叶ったのだが、当の翔嘩はこちらの語る今までの経緯に、特段反応することもない。

「翔嘩皇帝、このままでは世界の崩壊が近いと言うことは、ご理解頂けたと思います。華真族にばかり頼る現状は非常に危険だ。これは一国の問題ではないのです」

火澄のいやに真面目ぶった口調に、傍らをぎょっと見る。

翔嘩に負けず劣らず人を小ばかにした軽いノリしか知らぬ情報屋にとっては、為政者の風格を漂わせる火澄に驚かずにはいられなかった。

だが、彼の語る内容は決して適当に扱っていい話題ではなかった。

雪=華真から聞いたと言う世界の仕組み。

明かされたときは、玲明とて容易に信じることは出来なかった。

それでもこの極限状態に火澄が虚偽の話をするとも思えず、またイルビナが開発を進める術札「花」の実験データを見せられれば、信じる他になかった。

術札レベルにまで力を抑えているにも関わらず、花精霊の威力は凄まじい数値を叩き出していた。

これが根源の精霊としてのエネルギーならば、世界を十分支え得るだろう。

世界各地を廻る華真族が、花精霊にあれほど過剰に反応し、固執するのも頷ける。

華真族によって、この世界の安定が図られている事実は、何とも言えない気分だ。

ことの重大性を理解しているだろうに、翔嘩はくっと口端を持ち上げた。

『その華真族とやらが語った話なのだろう?私はそいつを知らないからな。信じることが出来ると思うか?』
「少し前まで、各地で頻発していた地震はご存知でしょう。イルビナの調査では、大地に流れるエレメントエネルギーの揺らぎが、原因と見られています。今、ダブリア、ネイド、シンラでは地震は発生していない。すでに雪=華真が廻り終えた土地だからです」
『先日のイルビナを襲った地震も、それが原因だと?』
「そうです。僕たちが軍にいた間に調べられた情報は少ないですが、やはり精霊の揺れは強い。特に、術札「花」開発の影響で、イルビナの花突は他国の比ではないほど荒れていますから」

他国の地震がさして大きなものでなかったのは、イルビナと異なり花突に手を出していないからだ。

西国に踏み入るや、雪が体調を崩してしまうほどに荒れ狂ったイルビナの花精霊。

これだけ甚大な震災となったのは、間違いなく花精霊開発のせいである。

「今回はまだいい。雪くんが花突を廻り押さえてくれている。でも、この先どうなるかは分からない。いつ華真族に見放されるか分からない。いや、そもそも一部族だけに任せていい問題じゃないんです。これは世界全体で取り組むべき課題だ」

モニターの向こうにいる翔嘩は、中性的な貌を思案するように顰めている。

玲明からすれば、何が彼女を是と言わせないのか分からなかった。

生きるか死ぬかの選択肢を、提示されているも同じだと言うのに。

逡巡する理由は一体なんだ。




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