真実を聞く覚悟は出来た。

つかえていたものをすべて吐き出した今が、受け入れる時だ。

ゆっくりと手を引かれるまま、衣織は神殿の中央に彫られたサークルの中に入った。

精霊石の明かりを頼りによく見れば、溝の内側には複雑な文様が彫られていて、凹凸の陰影が分かる。

「手を離すな」
「わかった」

言われて、もう一度しっかりと繋いだ手に力を込めた。

傍らの男が、何かを囁くのが聞こえた気がする。

そう思ったのと、視界に映る光景が激変したのはほぼ同時であった。

「はっ!?え、なにここ?」

寸前までの神殿ではない。

慌てて首を廻らせれば、一体光源はどこなのか、ともすれば日中よりも明るい世界に動揺が深まった。

ごつごつとした岩肌と、さして高さのない天井に、洞窟の中ではないかと当りをつける。

周囲を囲む岩が黄土色であることが気になった。

「雪、ここは?」

現状を把握すると、少しは冷静が蘇り、未だ手を握り合ったままの存在に問いかけた。

男は衣織を奥へと続く細い道へと促す。

「ここは天園の花突だ。さっきまでいた場所は仮初に過ぎない。深部まで入り込める花突は、もうここだけだろうな」
「花突の深部……。じゃあ、今まで廻って来た土地にも」
「そうだ。歳月を経て封じられてしまったが、本来はここと同じだろう」

説明を受けながら観察した深部は、壁や天井自体が発光しているのだと気が付いた。

気になってよく目を近づけようとした少年だったが、不意にこの岩肌に既知感を覚えた。

初めて訪れたはずだから、自分が知っているはずもないのに。

体に流れる母方の血が反応でもしたのだろうか。

怪訝な思いを抱きながらもどうにか進んで行けば、突然開けた空間に出た。

狭い通路と異なり、十分な広さを誇る円形のそこは、天井もぐっと高く見上げるほどだ。

広間の最奥には、大仰な台座がある。

随分と大きな台座だったが、しかし何も乗ってはおらず、一体何のためにあるのか分からない。

いいや、距離があったために見えなかっただけで、台座の前まで足を進めれば、小さな黒い水晶が台座の上に浮かんでいる。

ふわふわと頼りなく浮遊する水晶は、衣織の拳ほどもなかったが、少年はそれが何かをすぐに悟った。

「あれって雪が持ってるのと、同じ水晶だよな?」
「花石と言う」
「え、花石って白いやつのことじゃないのか」
「どちらも変わらない。色が異なるだけだ」
「そっか。白い花石も黒石も同じ……え?あれ?」

続けようとして、出来なかった。

口にしようとする内容の異常性に、背筋が凍る。

眉一つ動かすことのない相手を、恐る恐る窺い見た。

「雪、あの白水晶のこと、妹さんの心臓だって……じゃあ、この黒水晶は……今までアンタが使って来た水晶は……」
「すべて華真族の花石、命だ」
「え、や、だってそれじゃっ!」

廻る土地に消えた黒い花石。

華真族の心臓。

疑問を持った母。

宿命。

すべてを見通す金色の輝きが、衣織の疑念を引き受けた。

「俺たちには、二つの宿命がある。一つは天園から出ないこと、もう一つは―――世界に命を捧げることだ」

秘されし謎が、姿を見せる。




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