道の整備や物資の配給、死傷者の措置、すべて行き届くまでには以前と同じスピードでももう少し時間がかかる。

そんな中で、軍を撤収させられるはずがあろうか。

乱心したとしか思えぬ指示に、何を言っているのだろうかと、大佐は目を見張らずにはいられなかった。

だが。

「それがどうした」
「何を……っ」
「この街は、この国は誰のものだ。お前たちは誰のものだ。誰のために動く駒だ。そして、お前は誰に向かって物を言っている?」

枯れ枝のような体に見合わぬ、凄まじい気迫。

双肩から立ち上る何かに呼応したように、大気が震えるのが分かる。

首の後ろを冷ややかな手で押さえられた心持で、大佐は息を呑んだ。

「あ……し、しか…し……」
「研究所の復興は急務だ。火澄のおかげで使いものにはならんからな、華真族を捕らえようとも、それでは何の意味もない」

きっぱりと、罪悪感の欠片さえ見えぬ表情で、元帥は言い切った。

この国に住まう民よりも、己の研究が大事なのだと。

言い切ったのだ。

先ほどまでは確かにあった、大佐の中の出世欲が吹き飛ばされる。

変わって胸を満たしたのは、信じられぬ思いと。

「いいか、これは『私』からの『命令』だ。お前に逆らう権利があると思うか?従わぬ駒はいらん―――市街から、兵を撤収させろ」

確かな不信感であった。




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