ライトを光らせ素早く二人を包囲するジープの動きは、よく訓練されており逃げる隙がない。

フロントガラスの向こうに見えるのは赤い軍服。

やはり見逃してはもらえなかったようだ。

あの程度の言い訳で逃げ切れるとは思っていなかったからこそ、走り続けていたのだけれど。

衣織たちの正面に止まったジープから、一人の女性が飛び降りた。

次々と車両から出て来る男たちの中で、華奢な身は明らかに浮いている。

「……レベル3に、女?」

ここのところ大活躍の嫌な予感が、またしても衣織を襲う。

「先ほど部下に見つけられた民間人とは、貴様らか?」

女は品のいい美貌の持ち主ではあったけれど、その声音はあまりに冷ややかであった。

「そうです」

最悪だ。

困惑した様子で答えながらも、これから何が起こるかを思えば、脳内は悪態で埋め尽くされそうだ。

一般人を装ったところで、二度も同じ手が通用するわけがない。

と言うよりも、一度目が通じていたのなら、このような状況を迎えるはずがない。

傍らに横目を投げると、雪と目が合った。

いくら世情に疎い彼でも、気付いているようだ。

戦闘は免れないと。

「ただの一般人、か。つくづく無能なヤツだ」

女の呟きは、誰か別の人間に向けられているようだった。

衣織は相手の腰に下げられたレイピアに目を留めると、胸中だけで己の不運を嘆く。

前に聞いた噂が思い起こされて、うんざりしている内に、女は赤い唇を開いた。

「貴様らを逃がすわけには行かない。総員、かかれっ!」

号令と共に、隊列を成していた赤い男たちが動いた。

「あーっ!!マジで最悪っ」

術師と左右に散り、少年は素早くホルスターから銃を取り出した。

常とは異なり、弾代よりも弾数を考慮して撃ち始める。

二人の足を撃ち抜いた時、左からサーベルが振り下ろされた。

寸での所でかわすも、体制と整える間もなく足元に銃弾が打ち込まれ、慌てて飛び退く。

腹いせに背後に迫った兵を蹴りつけた。

やりにくい。

昨日の山賊とは比べるまでもない。

こちらは戦闘のプロなのだ。

見事な陣営で連携された攻撃を仕掛けてくる。

山賊よりも少ない人数ではあったが、手強さで言えば彼らの方が数段上だ。

襲い来る攻撃の数々を避け、地道なフルコンタクトで敵を沈めていた衣織は、離れた場所で戦う雪が右手を振るうのを見た。

「うわぁっ!」
「なんだっ!?」

人為的に引き起こされた、小さな雪崩に飲み込まれた仲間を見て、他の兵士の間にどよめきが走る。

しかし、そこは流石に精鋭部隊。

すぐに術師だと理解すると、雪と距離をとりつつ警戒態勢に入る。

上段蹴りから回し蹴りと連続技を繰り出して一人を沈めると、衣織は雪に叫んだ。

「頭数減らせっ、こっちはヘッド押さえるっ!」
「分かった」

彼が頷くのを確認してから、衣織は一人悠然と佇む女へと駆け出した。

先ほどの宣言から、彼女が指揮官なのは明らかだ。




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